INTERVIEW
ICUと二人三脚のチーム制で、最大限のパフォーマンスを
心臓血管外科医の田端実先生は、アメリカ留学で出会った低侵襲心臓手術をライフワークに、東京ベイ・浦安市川医療センターや虎の門病院で、ハートセンターの設立・運営に携わっています。効率化を軸に、ICUによる術後管理の体制構築、他病院とチーム形成など、新たな仕組みで、心臓手術の発展と外科医の価値向上を目指しています。
2013年より東京ベイ・浦安市川医療センターの心臓血管外科部長に就任し、ハートセンターの立ち上げに携わりました。そこではチーム制を取り入れ、2019年は年間400例の開心術、その他の手術を合計すると550例を超えるペースで心臓血管手術を行ってきています。また、2019年6月より虎の門病院でも心臓外科チームを立ち上げ、年間200例を超えるペースで開心術を行っています。どちらのチームも外科医の人数は最小限で運営しているのが特徴です。
どこの病院も心臓手術では麻酔科や看護師、臨床工学技士、理学療法士とのチームワークを重要視されていると思います。それに加え、周術期管理におけるICU科と診療看護師との強固なチームワークが当院の特徴です。
東京ベイでの立ち上げの際に、集中治療科部長の則末泰博先生とチーム制を検討した際も、最初にディスカッションしたのは、心臓外科の患者の術後を、心臓外科とICUのどちらで管理にするかでした。
病院によっては手術の後に夜通し外科医が術後管理を行ったり、休日に外科医がそれぞれ担当の患者を診に行ったりするケースもありますが、それではオン・オフの区別がつきませんし、症例が増えていった時に疲弊して行き詰ります。術後管理のために心臓外科医を増やすことは、結果として、医師一人当たりの手術件数が減って、手術が本業である外科医の仕事が術後管理中心になってしまいます。
外科医は手術室で最高のパフォーマンスを発揮することで世の中に貢献できるのです。手術以外の仕事はなるべく他のエキスパートに任せるというのが、私の基本的な考え方です。患者さんからしても、寝ていない、休めていない外科医に手術をしてほしいとは思わないでしょう。完全チーム制で、週末や夜間はICU科の常駐医師とオンコールの心臓血管外科医が全てカバーする。そのため当院の心臓外科医は当直もありません。そのような効率的な体制が結果として手術の質をも向上させることになります。
仕事への姿勢をチーム内で統一すること。そして目標を一致させることでしょうか。私たちのゴールは「手術の成績向上と症例数の増加、そしてイノベーション」です。
当科では「15か条の基本方針」を設けて新しいスタッフが入るたびに説明し、毎年見直しもします。「なんとなくこんな感じ」ではなく、明確に伝えることを意識的に行い、ゴールを一致させています。チーム制の要であるICU科とは、何か問題があればその都度すぐに話し合い、システムを変えていくようにしています。大きなゴールに向かってチーム全体で進んでいく、その中で惰性的にならず常に新しいことを生み出すことを目指しています。
特任部長として週2日勤務しています。虎の門病院のような伝統ある大規模な病院でハートチーム作りに携わることはとてもやりがいのあることです。過去のチーム作り経験は生かしますが、同じものを作るつもりはなく、虎の門病院には虎の門病院にあったやり方があると考え、そこにあったスタイルでチーム作りを行っています。ただし「効率重視」は一貫しています。
PROFILE
東京ベイ・浦安市川医療センター
田端 実
1999年東京大学医学部を卒業。同大学附属病院、関連病院にて一般外科研修を行う。2003年新東京病院心臓血管外科レジデント、2004年よりBrigham and Women’s Hospital /Harvard Medical School心臓外科フェロー、ハーバード大学公衆衛生大学院、Columbia University Medical Center心臓胸部外科インストラクター、ベルギーOLV clinic 低侵襲心臓手術フェローを経て2009年に帰国。帰国後は、榊原記念病院心臓血管外科スタッフ外科医、2013年より東京ベイ・浦安市川医療センター 心臓血管外科部長に就任。2019年からは虎の門病院循環器センター外科特任部長も務める。慶應義塾大学医学部 非常勤講師、杏林大学医学部 非常勤講師、東京慈恵会医科大学 非常勤講師、聖マリアンナ医科大学 非常勤講師を兼任している。