「普通」の人が気軽に受ける、美容皮膚科の治療
美容皮膚科に進んだきっかけは何ですか?
同じ医局の先輩が内科から転科して美容皮膚科のクリニックを開業しており、軽い気持ちで見学に行ったのがきっかけです。もともとは内科を専門としており、その時点ではまさか自分が美容の道へ進むとは思っていませんでした。
それまで、美容の分野には正直あまり良くないイメージもあったんです。特殊な、ごく一部の限られた人たちが受ける医療で、閉鎖的な世界なのではないかと思っていました。でも、そのクリニックに見学に行った時、それまで持っていたマイナスのイメージがあっという間に払拭されました。
実際にいらっしゃっているのは、自分の母親や日頃会っている友達のような方々で、特殊な世界ではなく、皆さん美容室に髪を切りに行く感覚で気軽に受診されていたのです。美容皮膚科が当たり前のように浸透していたことに衝撃を受け、逆に自分自身に美容医療に対する偏見があったことに気づき、美容医療がポジティブな印象に変わりました。同時に「これをやってみたい」と思いました。
きっかけはもう一つあります。以前から気にしていた虫刺されの痕がシミのようになっていて、見学に行ったクリニックでその箇所にレーザーを照射したところ、目に見えて改善していったのです。それまでは皮膚科で処方してもらったクリームを塗っていたのですが、大幅な改善はなく、半ば諦めていました。その時、この「少し踏み込んだプラスαの治療」を望んでいる方は大勢いるはずと思ったのです。
美容外科には敷居が高くて行きづらい方でも、しみやしわを取ったり、にきびを治したりという、スキンケアを中心とした美容皮膚科であれば、気軽に受診できるのでは。「あまり人には知られずに、でも、きれいになりたい」という日本人の国民性にも合っているのでは。そう思ったのです。
美容皮膚科の治療について、もう少し詳しく教えていただけますか?
美容というと、メスを使った外科系の治療が主流でした。痩身を例に挙げても、まず思い浮かぶのは、脂肪吸引ではないでしょうか。脂肪吸引というのは、大幅なサイズダウンは見込めますが、リスクのない治療ではありません。「リスクを伴う大幅なサイズダウンは望まないけれど、部分痩せや、ちょっとこの部分を減らしたい」という方にレーザーなどの機器を使って、満足のいく結果を出すことができるのが美容皮膚科で行える痩身治療です。
今は痩身エステなどもありますが、美容皮膚科では、医師が扱う前提で出力の高い機器を使用しますので、医学的根拠に基づいた結果の出る治療を提供することができます。
人に感謝されることを仕事にしたい
医師を目指したのは、どのような理由からですか?
私は、祖父の代から続く開業医の家で育ちました。夜、食卓を囲んで食事をする時に父がいつも話していたのは、「患者さんにありがとうと言われるのがうれしい」という医師の仕事の話でした。そのような環境が影響しているのかもしれません。子どものころ病院に遊びに行った時に見た、患者さんが父に感謝している姿は、今でも記憶に残っています。
医師になって、まずはきちんと病気を診ることができるようになりたいと考えました。目の前で倒れている人がいるときに何もできないような医師では、意味がないと思ったからです。救急や外科も考えましたが、体力的なことも考慮して内科に進みました。
そうして5年ぐらい経って、内科認定医を取得し「さて、これからどうしようか」と考え始めた時、病気を治すだけが医師の仕事ではなく、高齢化社会に向けて、予防医学やアンチエイジングといった健康な人をより健やかに保つ医療の道も、社会のニーズなのかもしれないと考え始めました。美容皮膚科という新しい分野ができたのも、ちょうどこの頃でした。
そのころから開業したいという夢があったのですか?
自分のクリニックを持つことを決めたのは、開業の半年前です。それまでは私は勤務医でいいかなと思っていました。そんな器ではないし、経営の数字も得意ではないし、医療の事だけ考えていられればそれでいいかなと。でも、たまたまいろいろなタイミングが重なって、力を貸してくださる方も現れて――心の奥のどこかでは、いつか開業できたらいいなと思っていたのかもしれません。
美容皮膚科に移って経験を積むうちに、美容皮膚科医としてできることも増えていました。病気の場合はたいてい診療ガイドラインがあり、それに従って治療を行うのが一般的ですが、美容医療は保険診療ではないので、基本的にはオリジナルの治療を患者さんに提供します。100人の医師がいれば100通りの治療方法があるのが美容医療で、しみ一つを落とすにしても、医師によってやり方が違うのです。そのような中で、自分が良いと思う治療だけを追求できる場所が欲しいという思いも、湧いてきていました。
自分で試した治療だから患者さんの気持ちが分かる
日頃意識しているのはどのようなことですか?
美容皮膚科での治療は、医師のセンスが患者さんと合えば非常に長い付き合いになりますが、そこがずれるとなかなかうまくいきません。そのずれを防ぐために、患者さんに行う治療はできるだけ自分で体験してみるようにしています。
自分で試してみて初めて言えることもたくさんあります。例えば、しわを取るボトックス注射で、教科書に載っている量を自分に打ってみたところ、効きすぎて表情を作れず、つらい思いをしたことがありました。それ以降はしわを完全になくすのではなく、あえて少なめに、効きすぎない程度に打つようにしています。
自分自身が身を持って体験したことだから、「効きすぎるとつらいんですよ」という一言を伝えることができる。そういった面では、今のほうが、病気の方を診ていた内科医の頃よりも患者さんの気持ちを理解しやすいのかもしれません。自分で試した実体験に基づいて説明することができるというのは、この仕事のありがたい部分でもあります。
ほかに意識していることは、患者さんの希望に合った治療方法を選ぶということです。痛みがない治療がいいという人もいれば、多少痛みがあってもいいから効果の高い治療を選びたいという人もいます。同じような効果の得られる治療方法がいくつかある場合にはそれを説明して、患者さんが快適な方法をご自身で選んでもらうようにしています。
美容皮膚科ならではのやりがいは何ですか?
内科では、どうしても救えないがんの患者さんを担当したり、慢性疾患で苦しむ患者さんにただ寄り添うことしかできなかったり――といった場面に遭遇することがたびたびありました。今専門としている美容皮膚科は、健康な状態から始まる医療なので、患者さんに元気をもらう場面も多々あります。治療を施すごとに患者さんがどんどん心を開いてくれて「先生のおかげできれいになれました」などと言ってくださり、生き生きと変わっていく姿を見ると、美容皮膚科をやっていて本当に良かったなと思います。
最近特にやりがいを感じるところといえば、経験を積むにつれて、患者さんから「先生じゃなきゃだめ」と言ってもらえる機会が増えてきたことでしょうか。フィーリングやセンスの合う先生に治療してほしいという患者さんがいて、そこに自分が必要とされることは、やっぱりうれしいですね。