「かぜ」のときに医者が出す薬
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私は診療所の医者です。ちまたでは家庭医と呼ばれております。日々患者さんの診察をしているわけですが、なかでも多いのが「かぜ」症状の方です。かぜは万病の元と言われていますから、早めに医者にかかっておきたいのが人情というものです。
患者さんの中には「かぜなんですけど」と言いながら入ってくる方がおられます。症状が鼻水、くしゃみ、咳ですから、素人目にも、かぜに違いありません。もうすでに市販薬を買って飲んでいるのかなと疑問に思いながら、
「そうですか、かぜなんですね。で、何かお薬は飲みましたか」とお聞きしますと、
「市販の何々を飲んだのですが一向によくならなくて」
(ああ、そうでしょうね、まだ1日しか経っていないのですから。)という方がいれば、
「飲んでいません。薬の飲み合わせもあるかと思って聞きに来ました」
(すごくありがたい、患者の鏡です。)
という慎重な方もおられます。
このように、医者と患者の間には結構な考え方の違いがあります。医者は、かぜは自然に治るものだから、対症療法(症状をとる薬による治療)で病院に来るまでもないと思っているのに対し、患者はなんとか症状を良くして、早く仕事や学校に行きたいと思っているようです。
ところで、かぜの治療をする医者にはいくつかのタイプがあるように思います
〈タイプ1〉
「ああ、インフルエンザの検査が陽性でした。特効薬があるんですよ、これでばっちり治ります」
ほとんどのインフルエンザに対する薬は1日ほど早く治るだけという研究結果が出ています。症状を劇的に良くする効果はないので、普通の元気な方ではそれほど違いはありませんね。
〈タイプ2〉
「こじらせて肺炎にならないように”念のため”抗生物質を出しておきましょう」
抗生物質がもらえるなんてラッキーとか思っている方、いませんか。ブブー、それは間違いです。かぜに抗生物質は効きません。それにつけても「念のため症候群」は日本に蔓延(まんえん)していますから、あなたの近くでもお目にかかる機会があると思います。
〈タイプ3〉
「では念のため、痛み止めと抗生物質とステロイドも一緒に出しておきますね」
発熱で使うであろうと予想される薬を前もって出してくれる丁寧な「念のため」先生。これも健康な人に対してはやりすぎです。
以上のような処方が出たら、みなさんも少し疑ってかかるようにお願いします。医者に意見できるのは患者さんしかいないのですから。
最後に、患者さんからよく言われることを一つ。
「すいません、くしゃみの薬が出ていないんですが出してもらえますか」
「えーと、くしゃみは鼻炎のくすりが効くかもしれませんので、少し様子をみてください」
咳、痰、鼻水、のど、くしゃみ……丁寧に全部薬を飲めば何種類になるでしょうか。薬だけでおなかいっぱいになるでしょう。薬に頼らず、たまには仕事をセーブして、水分と休養を取りゆっくりしてみてはいかがでしょう。すごく早く治るかもしれませんよ。
医師プロフィール
菅野 哲也 内科
1999年福島県立医科大学医学部卒業。総合診療医を目指し市中病院で研修後、日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医取得。2010年より荒川生協診療所所長。区が主宰する荒川コミュニティ・カレッジ修了後、診療所を中心とした地域コミュニティのかたちを模索する「あらかわまる福プロジェクト」を主宰している。