尿もれ、腰痛、脱毛症…「QOL疾患」治療の重要性
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◆「QOL疾患」とは?
「QOL(Quality of Life)疾患」というのは、放置しても死ぬことはないが生活の質がとても落ちる病気のことです。QOL疾患を放置すると、仕事や家事、余暇の過ごし方などに悪い影響を与えます。
QOL疾患には、尿もれや骨盤臓器脱、腰痛をはじめとする慢性疼痛症、脱毛症、アトピー性皮膚炎などがありますが、このような疾患になると仕事や家事に対する意欲が低下したり、余暇を過ごすための外出をしたくなくなったりして、鬱状態になってしまうことがあります。人生を楽しく過ごすためには、自分の生活の質が低下していることを自覚し、早めに治療を開始することが重要です。
がん、脳血管障害、心臓病など、放置すると死ぬ病気に比べると一段低くみられてきたQOL疾患ですが、最近やっと注目されるようになりました。長生きするようになった先進国で高齢化によるQOL疾患が増加し、衣食住が足りていればいいという時代から、さらに豊かな人生を送りたいと望む時代になったためです。
また、以前は検査値の改善などがなければ治療効果を測ることができませんでしたが、今は自覚症状の改善を統計的に処理することで、治療効果を数学的に測定できるようになっています。統計学的に処理された国際的な問診票を用いてQOL疾患の病状を評価することもあります。
◆QOL疾患の治療はハードルが高い
QOL疾患の治療は日々進歩しています。例えば、尿失禁の治療には、骨盤底筋のトレーニングや、電気・磁気療法、薬物療法などがあり、進行している時には、骨盤内の臓器を支えるテープやシートを入れる手術が有効です。ちなみに『女性下部尿路症状診療ガイドライン』では、骨盤底筋のトレーニングは、エビデンスレベルA。電気・磁気療法は、エビデンスレベルB。薬物療法は、エビデンスレベルA。骨盤内の臓器を支えるテープやシートを入れる手術は、エデンスレベルAです。
QOL疾患にかかると、通常の生活を送ることが困難になります。尿失禁を起こす疾患の一つである過活動膀胱になると、1日の排尿回数が20回以上になってしまい、トイレがあると確認できるところ以外には外出できなくなってしまう人もいます。このような方々の生活を向上させるためのQOL医療ですが、日本で受けるにはハードルが高く、治療を受けられずに困っている人々が本当に多くいらっしゃいます。
その理由として、専門医が少ないことがあげられます。また患者さんの側にも、死ぬ病気でなければ、我慢してしまおうという意識が根強くあります。さらにQOL医療のかなりの部分は、健康保険の適応となっていますが、新しい医療にはなかなか健康保険が適応されず自由診療となるため、診療費が高くなってしまう傾向もあります。
台湾や韓国では、アメリカで認可された医療技術に関しては速やかに健康保険適応の医療として国が認可します。日本では、海外で認可されている医療技術であっても、健康保険適応に至るまでに慎重な評価が踏まれるため、台湾や韓国に比べると適応が遅いです。しかしアメリカで認可された医療が全ていい医療だとはいえないため、適応が遅いことは悪いことばかりではないと思います。ただ、日本では適応の遅さ故に、医師が最新治療を行う場合、自分の医師免許をかけて非常に慎重に、自分が良いと信じる技術を選び、自由診療で行うことになってしまいます。
QOL疾患で困っている多くの方がより手軽に適切な治療を受けられるようになるために、良質なQOL医療技術が、現在よりも速やかに健康保険適応になるシステムが必要なのではないかと感じています。
医師プロフィール
関口 由紀 泌尿器科
山形大学医学部卒業後、P.P.Petros 先生に師事、インテグラル理論とTFS手術技術習得。横浜市立大学大学院医学研究科修了、日本大学グローバルビジネス研究科修士課程修了。横浜元町に女性泌尿器科、婦人科、女性内科・漢方内科の3つのクリニックを順次開業。理事長として世界標準の女性医療を目指す新しい日本の女性医療の拠点作りを行う。横浜市立大学客員教授、女性医療クリニックLUNAグループ理事長。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本透析療法学会専門医、医学博士、経営学修士