医療リテラシーの差異を乗り越える「患者さんとの対話術」
記事
―先生が患者さんとの間に医療リテラシーの差異を感じるのは、どのようなときですか?
例えば、子どもの風邪が長引いているときに、親御さんから「この症状はアレルギーじゃないですか」と言われることがあります。このようなとき、実際には風邪の可能性が高くても、親御さんが「こんなに症状が長引くのならアレルギーに違いない」と信じこんでいれば、風邪だと伝えても納得されにくい方が大半です。
抗生剤についても同様のことが言えます。風邪のときに抗生剤を求める患者さんがいらっしゃいますが、そういう方に「ウイルス性の風邪には抗生剤は必要ないですよ」と伝えると驚かれ、にわかには信じてもらえません。こういったときに医療リテラシーの差異を感じることがありますね。
―どうすれば患者さんに理解してもらえるのでしょうか?
患者さんに正しい知識を伝えても、全く理解してもらえなかったり、怒らせてしまったりしたことが何度かありました。「今飲んでいるのは良くない薬ですよ」とだけ伝えれば、「今まで私がやってきたことは間違いなの?」「そんなの聞いたこともないし、誰も教えてくれなかった。今さらそう言われても信じられない」と、戸惑われてしまいます。
患者さんが心を閉ざしてしまえば、本来の目的が達成されません。私は、正しい道筋を理解してもらうためにはどのような伝え方をするべきかを考えるようにしています。
―具体的には、どのように伝えればよいのでしょうか?
患者さんには答えだけでなく、その導き方も伝えることが重要です。「飢えている人に魚を与えるのではなく、釣り方を教えなさい」という中国のことわざがありますが、これと同じで、症状に応じた対処方法をしっかりと伝え、どういう状態になったら受診すべきかなど、判断の道筋を教えてあげることが大切だと思うのです。
「風邪には抗生剤」という患者さんの思い込みには、時間が取られるし面倒だからといって、風邪に抗生剤が効かない理由をきちんと伝えることなく、患者さんに求められるまま抗生剤を処方してきた面がある医療者側にも、原因があるのではないでしょうか。
―医療リテラシーの差異を乗り越えて、患者さんにうまく伝えるコツはありますか?
患者さんが今の考えに至った背景には、それぞれの経緯や理由があります。まずはそれを知ることです。風邪に対して抗生剤を求める患者さんに理由を伺ってみると、「これまでずっと抗生剤を処方されていたから」などと教えてくださいます。患者さんの考えをきちんと聞き、「それなら抗生剤で治ると思うのも当然ですよね」と共感した上で抗生剤が不要な理由を順序立てて伝えれば、たいていの患者さんは納得して受け入れてくれます。
また、待ち時間を使って、看護師や医療クラークなどからも説明するようにすれば、より短時間で患者さんの不安を取り除き、納得してもらうことができます。患者さんに資料を渡して家で読んできてもらい、次の受診時にその話をするのもよいでしょう。こうした工夫を重ねていくことで、患者さんの医療リテラシーをあげていくことができると考えています。
(聞き手 / 左舘 梨江)
医師プロフィール
白岡 亮平 小児科
新潟県生まれ。慶応義塾大学医学部卒業。大学在学中米国コロンビア大学に短期留学。さいたま市立病院、慶応義塾大学病院などに勤務し、小児医療を中心に一次医療から三次医療まで地域医療に勤務医として専念する。
2012年4月、東京都江戸川区に365日年中無休の「キャップスこどもクリニック西葛西」を開院。同年7月に医療法人社団ナイズを設立。2013年7月には北葛西、2014年1月には代官山T-SITE内、同年9月には亀有にも開院し、4つのクリニックの総院長を務める。
2014年12月、医療と他分野が融合して健康を作りだすことを推進するメディカルフィットネスラボラトリー株式会社設立。2015年9月、健康・運動・栄養のデータを統合的に管理し各専門職が健康をサポートするフィットネスジム「DATA FITNESS」をオープン。
日本医師会認定健康スポーツ医、米国アスレティックトレーナーやストレングスコーチの必須資格とも言われるNASM-PES(ナショナルアカデミーオブスポーツメディシン‐パフォーマンスエンハンストスペシャリスト)、加圧トレーニングインストラクター、ジュニアアスリートフードマイスター取得。
著書に「こどもの病気治療の本当のこと “Dr.365”のこどもの病気相談室」(小学館)がある。