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再生医療〔1〕 吸引した皮下脂肪が再生医療に使われている!?

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「再生医療」というと日本ではiPS細胞やES細胞を耳にすることが多いかと思います。しかしそれ以外にも、再生医療に利用されているものがあります。今回は、皮下脂肪から取れる脂肪由来幹細胞について研究されている順天堂大学形成外科教授の水野博司先生に、脂肪由来幹細胞について伺ってきました。

-最初に、再生医療が注目されたのはいつ頃か教えていただけますか。

雑誌「サイエンス」に1993年、日本語訳すると「組織工学」、英語でいうと”tissue engineering”というタイトルの論文が出ました。それから「再生医療」という概念が言葉として現れました。

その論文では、自分の細胞を培養して増やしたもので、失った臓器や機能を失った組織を再生するというコンセプトが発表されました。例えば耳を失った人の場合、耳の形に形成した医療材料に培養で増やした自分の細胞を振りかけると、数週間で耳の形ができ、それを移植するというものでした。この論文が発表された頃から、世界の再生医療が注目されるようになりました。そして90年代後半から、このような再生医療の研究が増えたんです。

-水野先生がチームで発表した脂肪由来幹細胞の研究経緯を教えていただけますか。

幹細胞にもタイプがありまして、万能細胞と呼ばれ、どんな形にもなれる胚性幹細胞(ES細胞)と、身体のそれぞれの組織にあり、限定的にいくつかの組織になれる体性幹細胞とがあります。

骨髄の中には、骨、軟骨、筋肉、皮下脂肪といった組織になることができる幹細胞があります。骨髄の中に幹細胞が存在することは当時わかっていました。しかし骨髄と同じ系統の組織である皮下脂肪の中にも、骨や筋肉などになる幹細胞が含まれているのではないかと、当時私が留学していたアメリカの先生が気付づき、私も参加したチームで研究、発表しました。

留学先のアメリカ・ロサンゼルスは、ものすごく美容外科分野が盛んな地域でした。そのため、脂肪吸引手術が頻繁に行われていたのですが、吸引した脂肪は使い道がないので捨てられていました。我々はそれをいただいて細胞を取り出し、本当に幹細胞の性質があるのか研究していたのです。取り出した細胞の培養状況を変えると骨の細胞になるか、筋肉の細胞になるかと試行錯誤した結果、大体そうなることを証明したんです。

-脂肪由来幹細胞を再生医療に利用するメリットはどこにあるのでしょうか。

メリットとしては、骨髄から幹細胞を取り出すより、非常に簡単に、かつたくさんの量が取れることです。骨髄から取る場合は臨床的に言うと、全身麻酔をして腰から針を刺して注射器でぐっと骨髄液を吸いあげます。そのようにして取りますが、量としてはせいぜい数百ccです。その中に含まれる幹細胞はと言うと、細胞1000万個のうちなんと1つしかありません。大変量が少ないのです。

一方皮下脂肪の場合は、局部麻酔で採取できるので、患者さん側の負担が軽いです。また、設定の仕方によって違いはありますが、脂肪の中の細胞の2%が幹細胞と言われています。脂肪は1グラムあたり5000個の細胞がありますから、その2%というと100個。1グラム中100個の幹細胞があるんです。100グラムの脂肪は一般的なマグカップの半分くらいの量なので、マグカップ半分の量の脂肪の中に1万個の幹細胞があるわけです。

このようにたくさんの量が簡単に取れるので、培養の必要がなくなります。培養をすると、どうしても培養中に汚染したり細菌が混ざったりする可能性がありますが、そのデメリットも避けられます。

これらの理由から、自分自身の体から取る幹細胞の研究の中では、脂肪由来幹細胞を使った研究者が増えてきています。

(聞き手 / 北森 悦)

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医師プロフィール

水野 博司 形成外科

順天堂大学医学部形成外科学講座教授。
防衛医科大学卒。防衛医大病院、硫黄島医務官、横須賀海自医務室、呉司令部医務衛生幕僚、米国UCLA形成外科、自衛隊舞鶴病院に勤務の後に退官。日本医科大学形成外科を経て2010年より現職。

水野 博司
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