お腹が弱いと骨粗しょう症になりやすい!?
記事
お腹が弱いことと、骨の強さについて、これまでほとんど研究がありませんでした。過敏性腸症候群(IBS)は比較的若いうちに始まり、この症状自体で命に関わることはまずありません。副作用が強い薬を使うケースは少なく、病院にすら行ったことがないという人も結構いらっしゃいます。一方「骨粗しょう症」は近年、高齢化とともに有名になった疾患ですが、原因として何を思い浮かべるでしょうか。
骨粗しょう症は、女性に多く、閉経後のホルモンバランス変化によって骨の新陣代謝が低下し、骨がもろくなってしまう疾患です。糖尿病や慢性腎臓病、 動脈硬化などの生活習慣病や、ステロイド剤内服も骨粗しょう症発症に影響しています。消化管の病気では、腸管に免疫反応が生じて慢性的な腸炎が引き起こさ れる、潰瘍性大腸炎やCrohn病などで合併しやすいとされ、治療や(ステロイド剤を使用することも多い)、食事や体重変化、腸管からの吸収障害などの影 響が考えられています。
生活習慣病やステロイドとはあまり縁がないIBSは、はたして骨粗しょう症や骨折と関連があるのでしょうか。米国の救急外来データベースから解析した論文をご紹介しましょう。
Increased risk of osteoporosis-related fractures in patients with irritable bowel syndrome.
Osteoporos Int. 2013;24:1169-1175.
方法
結果
※オッズ比:起こりやすさを示す統計学的尺度。1以上だと起こりやすいことを表す。数が大きいほど、より起こりやすい。
著者らは、炎症性腸疾患に含まれる、クローン病と潰瘍性大腸炎、さらに小麦・大麦などに対して免疫反応を起こすセリアック病患者とIBSの骨折リス クについて比較しています。特にIBSの外傷性骨折(転倒などによる)では、クローン病と潰瘍性大腸炎のオッズ比を超える結果になっています。
この論文が出て間もない頃、Nature Reviews Endocrinology誌がコメントを出しました。
Bone: Risk of osteoporotic fractures in irritable bowel syndrome.
Nat Rev Endocrinol. 2013;9:8-9.
米国救急外来データベースを使用しているため、いわゆる一般内科外来とは異なった選択バイアスがかかっている可能性があることや、IBSの患者はこ のデータベース上に登録された人数の1%程度にすぎないこと、IBSの症状や内服状況など詳しい情報がこれだけではわからないことが述べられています。 IBSに骨粗しょう症のスクリーニング検査などを進めるべきか、更なる検証が必要としています。
両雑誌の著者らが、あくまでもIBSと骨代謝について問題提起をした研究と位置づけています。疫学から病気のトレンドを見る手法としては一般的なも のです。個人的には、救急医療現場で全体受診者のうち1%がIBSと診断されていることに驚きました。「診断する」ということは、医師の頭のなかにIBS が思い浮かんでいるとも言い換えられるかもしれません。日本と制度の違いもあると思いますが、欧米ではIBSが浸透していることが垣間見えます。
おなかと骨の関係について、IBSの病態に密接に関係しているストレス関連ホルモンは、エストロゲンやステロイド剤の親戚にあたります。また炎症に 関連する刺激物質(サイトカインなど)との関連や、カルシウムやその他ミネラルの消化・吸収が骨の代謝に影響する可能性も考えられます。
これから更にIBSと骨粗しょう症との関係が明らかになっていくと思われます。月並みですが、骨粗しょう症予防には、運動やバランスの取れた食事が重要と言われています。運動は、ストレス解消にも良いので一挙両得かもしれません。
医師プロフィール
田中 由佳里 消化器内科
2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。
【おなかハッカー】