企業の健康管理に革新を起こす〔1〕 社員の健康情報を正確に把握できていない
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-山田先生が課題と感じていることはどのようなことでしょうか?
私は産業医を経験して、日本の企業は、社員の健康情報を誰も正確に全て把握できていないことが課題と感じていました。社員の健康チェックをするのは上長や人事担当者です。しかし健康面について詳しい知識を持っているわけではないので、それを補うために産業医がいます。ところが多くの場合、産業医が社員の面談をする際にその社員の健康診断の結果など情報がない中で行っているのです。
例えば○○会社では社員Aさんを明日、出張に行かせたいとします。しかしAさんはもともとパニック障害があり、さらには心臓疾患もあるようなのです。その時に、行かせていいのかという疑問が発生します。なぜなら出張に行かせることによって健康を害する可能性が発生するからです。その判断を今日中にしたいのですが、正確な情報が把握されていないため、すぐに判断ができないのです。
このように、日本の企業の中には全てを的確に把握できる体制が整っていないため、社員の健康判断が即座にできないところもあります。
また健康情報は、人事が把握している人事情報と、人事部が把握できないプライベートな分野である個人情報によって構成されます。このように2つ質の違う情報を管理しなければなりませんが、その管理も属人的で一元化されていないという問題があります。
例えば、Bさんの体調が悪いとします。話を聞くと「上司との関係が上手くいっていないこともあるけれども、プライベートでは最近彼氏と別れた」と言っていたとします。後者のプライベートな事情は、産業医や保健師は聞き共有できても人事には伝えてはいけない情報です。ただ個人情報も、病気にはなっていないけれども不健康な状態にある人、つまり未病の人の今後の健康管理を考える際には非常に重要です。つまり、企業にとっても見過ごせない情報になります。
このように個人情報も、健康情報としては残しておく必要がありますが、人事情報と別のファイルに記入して保存しておくと、Bさんの健康情報を把握したいときに非常に煩雑なのです。
(聞き手 / 北森 悦)
医師プロフィール
山田 洋太 産業医、心療内科
金沢大学医学部卒業。離島医療を経験し、その後慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)を修了。現在は、株式会社iCAREの代表取締役を勤めながら、診療内科医、産業医として診療も行っている。