企業の健康管理に革新を起こす〔3〕 企業の健康管理をベンチマーク比較
記事
-今後の展望はどのように描いているのですか?
私は医療のさまざまな分野で、今後さらに標準化をして行くことが必要だと考えています。
今までは医療においては、標準化なんてできないと思われていました。多くの人が、医療情報はケースバイケースだと思っていたからです。例えば50代でかかる盲腸と80代でかかる盲腸では性質が違うと思われていたのです。
ところが、DPC(包括医療費支払い制度)によって医療の標準化がなされたところ、50代の盲腸も80代の盲腸も個別性は関係なく同じだと分かったのです。このように標準化は、医療の質の向上につながります。そして医療の効率が上がり、コストが下がるのです。
また都道府県別で自殺者対策のベンチマーク比較がなされた例があります。自殺者が13年連続で3万人を超えていた2000年、NPO法人ライフリンクが、全国の自殺者対策の調査をして点数化しました。そしてその結果を各地方紙に送ったところ、それを見た住民が議会に自殺対策をするよう働きかけたのです。これまでは、自分の住んでいる地域の自殺対策がどうなっているのかよく分からず、加えて他の地域と比較できないと思っていたものが、数値として他と比べられるようになったことで一気に関心が上がったのです。
つまり、見えないものに取り掛かるには、必ず見える化が必要です。見える化しなければ、問題も特定できないからです。
産業衛生の話も同じです。私たちのcatcballはプラットフォームとなり、あらゆる会社に導入してもらうことでデータの比較をし、「なぜこの会社は休職者が少ないのか?」「なぜこちらの会社は休職者数が高いのか?」「その差は何か?」とベンチマーク比較していきたいと思っているのです。
ベンチマーク比較をすると、企業の健康管理の質が必ず上がります。そうすればこの世の中から、働くことを通して健康を害する人が減ります。より多くの働く人が健康であれば日本の生産性があがります。これが私たちの最終的な目標なのです。
(聞き手 / 北森 悦)
医師プロフィール
山田洋太 産業医、心療内科
金沢大学医学部卒業。離島医療を経験し、その後慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)を修了。現在は、株式会社iCAREの代表取締役を勤めながら、診療内科医、産業医として診療も行っている。