五郎丸ポーズ!? 揺らがず・とらわれない思考法
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ラグビー日本代表の五郎丸選手によって、“ルーティン”という言葉が広まったのではないでしょうか?
ラグビー日本代表は、歴史に残る偉業を今回のワールドカップで成し遂げ、見事自分たちの力を出し切って南アフリカに勝利しました。技術面・戦略面・体力面で、南アフリカに勝利し得るだけのものを日本代表チームが積み重ねてきたことは確かです。しかしあの勝利には、間違いなく心の状態も大きく影響していたのではないでしょうか。
スポーツ心理学の言葉で言えば、あの試合は間違いなく「フロー」なものだったと言えるでしょう。つまり、日本の選手たちが、心が“揺らいたり”“とらわれたり”することなく、良い心の状態でプレーしたことが、結果的に勝利に結びついたということです。彼らは一瞬一瞬を「フロー」な状態でプレーし、終わってみれば勝っていたという試合だったのです。
このような試合ができるようになるために、心技体を4年間鍛え抜いてきたと聞きます。そのためには心を鍛えようということで、メンタルトレーナーを日本代表に導入し、帯同させています。そのメンタルトレーナーが、安定したパフォーマンスを発揮させるために徹底したことの1つがルーティンです。
ルーティンとは、心を整えるための行動習慣です。とかく脳はさまざまなことを考えて、心に“揺らぎ”や“とらわれ”を形成して、パフォーマンスに悪影響を与えてしまいます。そんなときに事前に習慣化されている行動に集中することで、心の状態が整い、パフォーマンスが発揮されることになるのです。
五郎丸選手も自分のキックパフォーマンスを安定させるために、ルーティン動作を決定しようと繰り返し練習してきたのです。壁を作る動作、指を立てる動作、引き足の2歩と3歩、細かい足の運びの8歩などです。繰り返し繰り返し練習し、自分の感じをつかんでいきます。
ルーティンは縁起ではありません。縁起は、結果に紐づいた行動です。こうすると勝つとか、こうすると上手くいく、というもの。ルーティンは結果に関係なく、心を整えるための行動習慣です。この行動習慣で、心の状態がフローに導かれるというものです。イチローでいえば、バッターボックスでピッチャーの方にバットを向けて大きく回す仕草もルーティンです。
わたしの専門も、心をフローに整えるメンタルトレーニングですが、わたしの仕事は、行動のルーティンではなく思考のルーティンを皆さんがスキル化できるようにすることです。
行動のルーティンはとても効果のある習慣ですが、いつでもどこでもできるとは限りません。集中するために会社であの五郎丸ポーズはできないでしょうし、山手線の中でイチローのバッティングポーズもできません。しかし、思考はいつでもどこでも持ち歩けるはずです。
心を整え、自らをフローな状態へと導く思考の習慣があれば、それは便利だと思いませんか?
例えば、自分の感情に気づいたり、“今に生きる”と考えたり、ご機嫌であることの価値を考えたりするというような脳の使い方があります。このような脳の習慣は、心を整えるのに確実に役立ちます。
ルーティン化するには繰り返しの習慣が大切です。かつその習慣によって、心に変化が生じたのを感じる感性も必要です。気づきの思考や考える思考によって、心を“揺らがず・とらわれず”のフロー状態に導くことができるのです。
この思考習慣は、ポジティブ思考とは明らかに違います。ポジティブ思考とは、外界のものに対してプラスに考えるという、外界に接着するタイプのやり方です。わたしの提案する、フローを導く思考の習慣は、このように外界に接着したやり方からは離れた、思考そのもののエネルギーで心を整える習慣です。
そんな、心を整える思考が50個ほどあり、それらをワークショップやメンタルトレーニングで皆さんに伝えています。行動のルーティンも素晴らしいですが、思考のルーティンは、私たち1人1人の人生の質をいつでもどこでも向上させることのできる、素晴らしいスキルなのです。ただし、繰り返しの練習が必要なことは言うまでもありません。
心のための思考のルーティンを持った人生を!
医師プロフィール
辻 秀一 スポーツドクター
エミネクロスメディカルクリニック
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学び、1986年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。1991年NPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドを設立、代表理事に就任。2012年一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げた新リーグNBDLのチーム、東京エクセレンスの代表をつとめる。日本体育協会公認スポーツドクター、日本医師会公認スポーツドクター、日本医師会認定産業医