なぜ高齢者施設からの救急搬送が絶えないのか?
記事
-救急の現場で先生が感じる課題は何ですか?
高齢者施設からの救急搬送が増えていることです。普段は開業医の先生が診察されているけれど、夜間や休日にはその先生が診られないため、行き場がなくてこちらに搬送されてくるのです。搬送されてきた方の状態を診ていると「なぜ高齢者施設側は、この症状で救急車を呼んだのだろう?」「この症状なら前日に診ておいてもらえばよかったのでは?」と思うことが度々ありました。そのように思っていたので、「高齢者施設はどのようなことに困っているのか?」という疑問が湧いてきました。
また、救急は命を救うことが最優先で、そのための処置を行います。しかし高齢者の場合は、それが最善の方法かと言われると、必ずしもそうではない場合があるかもしれません。そこに葛藤を感じ、難しさ感じていました。高齢者施設の現状が分かればその葛藤を少しでも解消できるのではとも思い、調べることにしたのです。
-その結果どのようなことが分かりましたか?
約300施設に「医療面において、どのようなことが問題なのか」、「救命センターをどのように認識しているか」などをアンケートしていきました。すると、自分が気付いていなかったことがいくつかあることが分かりました。
例えば、「施設の職員数が不足しているため、利用者さんを病院で受診させたいけれども、連れて行くこと自体が困難」「救急車を呼んでもなかなか搬送先が決まらず、長時間待たされる」という回答がありました。
高齢者施設のスタッフさんは非常に限られたマンパワーで、数多くの高齢の利用者さんを見ています。その方々は当然さまざまな病気を持っていて、それぞれに対応を変えていく必要もあります。そのような中で、施設側も苦労しながらやっているということが、アンケートを通して浮き彫りになりました。
正直私の福祉に対する理解が少なかったのですが、福祉と医療は全く別物であることを、認識させられました。そして高齢者施設で医療の一部まで考えて実行していくのは難しい現状があるのだということが分かりました。
-今後、このアンケートはどのように活用する予定ですか?
これだけをいきなり現場に応用するのは難しいと思います。しかし、せっかくいただいた高齢者施設側からの生の声なので、論文など何らかの形にしていきたいと思っています。
(聞き手 / 北森 悦)
医師プロフィール
佐藤 信宏 救急医
2005年新潟大学医学部卒業。新潟市民病院救急科に勤務。
新潟県立がんセンターにて初期研修、新潟市民病院の救命救急科で後期研修を行う。福井大学医学部付属病院、東京都立小児総合医療センターにてER型救急を学ぶ。現在は新潟大学大学院医歯学総合研究科にも所属。また、2015年4月よりER型救急医学を志す、または実践する者たちで構成する非営利団体EM Allianceの代表を務めている。