若手医師の挑戦!「働けば健康になる職場づくり」 ~ビジネスパーソンが医療崩壊を救う鍵~
記事
-岡部先生が感じる課題はどのようなことですか?
30代40代のビジネスパーソンの中で、自分の健康を顧みない人が増えていることが課題だと感じています。そのような人は自分の心や体の声に耳を傾けず、忙しさを理由に不規則な生活を送ったり、食べ過ぎたり、甘いものを食べる習慣をなかなかやめられません。気がついたら糖尿病になっていたというケースが多く見られます。さらには治療もおろそかにしやすく、最終的に透析が必要な状態になるなど、負のスパイラルに陥りやすいのです。
現在、透析患者数は31万人に上ります。透析に至る原因疾患はいくつかありますが、その中で最も多いのが糖尿病です。糖尿病でも初期からきちんと治療すれば透析に至ることはほとんどありません。しかし治療をおろそかにしたために透析に至った人が11万人もいるのです。私は学生時代、透析センターへ見学に行った際にこの現状や透析の苦労と費用を知り、このような患者さんを増やさないためにも、若い世代の健康づくりが必要だと強く感じました。
-それに対してどのような取り組みをされているのですか?
2015年11月に「ジャパンヘルスケア」という団体を立ち上げました。この団体は、ビジネスパーソンをターゲットにしています。働く人たちが自分の健康を考え、その日から実践できるようなイベントを開催したり、認定資格プログラムを用意し、それをパッケージ化して企業に取り入れてもらうよう働きかけていくことを考えています。
都内で働くビジネスパーソン130名にアンケートを取ったところ、全体の47%の人が「健康に関心はあるが、今の自分は不健康だ」という認識を持っていることがわかりました。この方々が健康に対して実際に行動できるような認定資格を作ろうと考えています。
最終的には健康に関心のない人たちまで直接アプローチしていきたいのですが、興味のない人にいきなり健康の話をしたところでなかなか変わりません。それよりもその周囲の環境を整えることで「健康にならざるを得ない」状況を作ればよいのではないかと考えました。
ハーバード大学教授のニコラス・クリスタキス氏の著書にもありますが、肥満や喫煙習慣は伝染するそうです。自分の周囲の方が喫煙をしていると自分も喫煙する確率が高くなるのですが、同時に反対のことも言えます。つまり、周囲の人が健康に気をつける生活をしていれば、自分もおのずと健康に気をつけるようになるのです。実際にコンビニエンスストアのローソンでは、部署ごとに歩数を記録させたところ、飛躍的に全体の歩数が伸びたそうです。そういったことをさらに多くの企業の中に広めたいと考えています。
しかし、「健康に良いことをする」という意識付けをしてもなかなか広まりません。
そこで必要になってくるのが「楽しさ」と「つながり」です。人間は「良いこと」をしようとすると、真面目になって長続きしません。これは現代社会を見ても明白です。皆健康の重要性は理解していて、「バランスの良い食事をしなければ」「運動しなければ」「十分な睡眠をとらなければ」と思ってはいます。しかし、これらができていないということはつまり、「良いこと」という概念だけでは物事は長続きしないということです。
一方、趣味は皆、長続きします。それは楽しいからです。またサークルを作ることでより楽しく、長続きします。そのため「健康のケア」も「楽しい」という認識の下で「つながり」ながら行ってもらえるように、内容に工夫していきます。例えば、第一回目のワークショップでは単に講義を行うのではなく、ペアになって色々試してみながら実際に歩いたり、音楽合わせて歩いたりと、楽しくなる要素を多く盛り込んであります。
これらを重視しながらイベント企画や認定資格プログラムを作成し、まずは健康に関心があるけれど健康行動をとっていない人たちに向けて提供していこうと考えています。そして最終的には、この認定資格プログラムを企業に導入してもらい、資格を取った人が周囲を巻き込みながら企業の中で健康づくりをしていけるようにサポートしていきます。社会を作る働く世代だからこそ自分の健康をケアできるようにし、自然と健康になるような環境を増やし、社会全体が健康的になる仕組みづくりを実現したいと思います。
(聞き手/ 北森 悦)
医師プロフィール
岡部 大地 総合診療医
2011年三重大学医学部卒業、2013年東京女子医科大学 東医療センターで初期研修修了し、現在東京北医療センター総合診療科で後期研修中。内科認定医取得。具合が悪くなってから受診する患者さんたちを多く診療する中で、根本治療は若いうちから身体をケアすることだと感じ、2015年11月「ジャパンヘルスケア」を設立。ビジネスパーソンの健康づくり、職場環境づくりを行う。