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施設での看取りを可能にするために

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 高齢社会が進む中で医療を効率的に提供するため、病床の機能分化・強化にともなう入院期間の短縮を目標とした政策がすすめられています。慢性期患者の受け皿としても在宅医療のニーズが高まる中、老々世帯や独居世帯の増加により家での生活が難しいが、入院を継続することができない、受け入れてくれる施設がないなどという、いわゆる「看取り難民」の増加が課題となっています。
この課題を解決する手段の一つとして、施設での看取りがあげられます。施設での看取りを可能にするためにどのような対策が講じられるか、在宅での看取りに多く携わる安井佑先生にお伺いしました。

―看取り難民が生じる背景には、どのような課題があると感じていますか。

 患者さんの中には、「家族がいない」「家族との関わりが薄い」「家族に迷惑をかけたくない」「いつどうなるか分からないから入院していないと不安」などという理由から、本人に「住み慣れた場所で最期まで過ごしたい」という強い意志がない方がいます。一方、家族にも「自宅で最期まで過ごせるように支えたい」という強い思いがない場合があります。そのような思いのまま、本人や家族が延命措置を望まない、治療する術がないなどの理由から退院せざるを得ない状況となり、他に入れる施設もなかったとします。そうすると「安心して最期を迎えられる場所がない」と、看取り難民となってしまうのです。板橋区でもこのような方々が少しずつ増えてきている印象です。そのため、その人たちを受け入れる新たな場所が必要とされています。

 終末期の方が最期に過ごせる場所としてホスピスがありますが、ホスピスは都内に300床しかないので年間で多くても3千人ほどしか看取ることはできません。さらに、入れる要件としてがん患者のみと規定されているのですが、がんの方だけでも都内で年間3万人は亡くなられているので、まったく足りていない状況があります。

―その現状に対して、先生はどのような対策が必要だと考えますか。

 一つは病院に入院し続けることができずに家に帰らざるをえない患者さんに対し、他に行き場所がないことや家でも過ごせるということを丁寧に伝えることです。しかし、それぞれの状況や考え方の違いもあるので、在宅医療でできることをどんなに伝えたとしても、最期を家で過ごすことや、家で看取られることの不安をどうしてもぬぐえない方も当然いらっしゃいます。

 そこで二つ目として、そのような方々が最期を安心して過ごせる場所となる施設が必然的に求められてきます。現に北欧などでは最期を施設で過ごす方が多いそうです。看取り難民となる方々を受け入れる場所の確保という意味では、既存の施設が受け入れられるようになることも必要だと思います。また、もともと施設で長く過ごしている方々は、そこが住み慣れた場所となっているので、そのままその施設で亡くなっていくのも自然なことではないかと思います。そういうことを、世の中の多くの人が理解するようになれば、施設での看取りも自然と増えていくと思うんです。

―施設での看取りについて、施設側からすると「終末期の方は受け入れられない」という意識があるように思われます。そのような時に、診療所としては施設とどのように看取り体制をすすめていけるでしょうか。

 施設の人が施設での看取りを避けたい理由として、そこでトラブルが生じたり、何か訴えられたりすることが怖いという概念があります。施設で看取っても大丈夫という実績を積み重ねていくことが必要だと思っています。

 そういった施設をまわりに増やしていくため、私たちの診療所では施設での看取りをサポートしています。最近の例として、短期入所施設になりますが、がん末期の方をショートステイ利用中にお看取りすることができました。施設側としてはそれまで利用者を看取った経験がないので、当初は本当に具合が悪くなっていよいよ危ないという時には、利用を継続できないという意見でした。しかし、その期間はどうしても家でみることも入院することもできないという状況をケアマネージャーさんがよく理解されていたので、何とかその期間中は利用を継続したいという話になりました。そこで、私たちが施設の職員の方々に不安に思われることを聞き、「その不安な部分に対しては診療所が責任をとりますよ」などということをよく話し合うことで、受け入れてもらうことができました。結果、利用中にお看取りとなり、そこの施設では利用者を看取るという実績を残すことができました。

 このように「1人看取った」という実績をつくると、そこの施設の方々は「このように看取れば大丈夫なんだ」ということが分かるので、次回に似たようなケースがあった時に受け入れやすくなります。そのような積み重ねが、施設での看取りを進めていくことにつながるのではないでしょうか。

(聞き手 / 左舘 梨江)

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医師プロフィール

安井 佑 形成外科・在宅医療

医療社団法人 焔(ほむら)やまと診療所院長。2005年東京大学医学部卒業。千葉県旭中央病院で初期研修後、NPO法人ジャパンハートに所属し、1年半ミャンマーにて臨床医療に携わる。杏林大学病院、東京西徳洲会病院を経て、2013年東京都板橋区高島平にやまと診療所を開院し、在宅医療に取り組んでいる。

安井 佑
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