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医師にとって自分自身の健康を考えることは、患者さんのためでもある

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自分自身も医師として職場の様々な要因から守られていないことを実感し、産業保健の枠組みを医療機関へ当てはめて長年、さまざまな研究をされている国立国際医療研究センターの和田耕治先生。医療従事者の働く環境を見ている中で感じた大きな課題は、医療従事者が自らの健康を守る意識が低いということでした。

-先生が医療従事者の働く環境の研究をされている中で課題と感じていることは、どのようなことでしょうか?

これまで様々な課題がありました。たとえば患者さんからの暴力、感染症、化学物質などです。この10年で様々な取り組みがなされ解決されてきました。

現在、優先すべき課題として感じているのは、医療従事者自身が「自分の健康を守ろう」という意識がまだまだ低いことです。例えばタバコは健康を害すると広く知られていますが、男性医師で11%、女性医師で3%ほどが喫煙者です(1)。看護師の喫煙も珍しくありません。タバコを吸っている医師はなにが問題かというと、喫煙している患者さんに「タバコをやめなさい」といわないことです。それによって、防げるはずの病気を引き起こしている可能性もあります。なかには、「ストレスがたまるから、たばこをやめない方が良いと医師が言った」という患者さんも時々います。そうした患者さんはその後行動変容して禁煙することが極めて難しくなります。

しかし、このことはタバコに限った話ではありません。健康的になるための「食事」や「運動」も同様です。医療従事者は、バランスのよい食事や運動を自分自身が行っていないと患者さんとそうした話ができません。忙しいからということで不健康な毎日を過ごしている医療従事者は珍しくありません。もちろん健康意識が高く、忙しい日々の中でもマラソンやトライアスロンを行っている医師もたくさんいます。

運動をしていない医師は、「運動は何かやっていますか?」「走ると気持ちいいですよ、やってみませんか?」というような話題を患者さんと話せません。

近年は、国際的に特に医師が健康的な生活をおくることが患者のためにもなるとしてその重要性が強調されています。ぜひ日本でもそうした風潮を作りたいと思っています。

 

-確かに忙しさもあるかと思いますが、健康に気を付けて、例えばバランスの良い食事を規則正しく摂ったり、睡眠を十分に取ることを意識したりしている医師が多いとは、あまり感じられないかもしれません。

この根底には、日本の医療従事者の多くに「健康に関するオピニオンリーダーである」という意識が薄いことがあるのかもしれません。海外を見てみると「自分自身の健康を守ることは医師としてのプロフェッショナリズム」という考え方がしっかり根付いています。しかし、日本はその点までを医師のプロフェッショナリズムとして言語化していないのです。

アメリカ、イギリス、カナダの3カ国の医師会は毎年、持ち回り制で「医師の健康を考える学会」を開催しています(2)。その学会には必ず各国の医師会長が3名そろい、「医師の健康は重要だ」とスピーチします。それぞれの国の医師会長を同日、同じ場所に連れてくるということはスケジュール調整の面でも非常に大変なことです。しかし、それでも3名を集めて2日間に渡って学会を開催するほど、「医師の健康管理の重要性」を認識しているのです。

学会中は、朝に1時間のウォーキングツアーが開かれたり、食事の講演があったりします。その内容は自分のためであることはもちろんですが、ひいては患者さんのためになるということを、きちんとメッセージ化されている点が評価できます。

 次の学会は、2016年9月にアメリカ医師会の主催で、ボストンで開催されます。(http://www.ama-assn.org/ama/pub/physician-resources/physician-health/international-conference-physician-health/call-for-abstracts.page

 

―先生が考える、日本の医師の健康を守る解決策は何ですか?

個人だけでなく医療機関が一体となって医師だけでなく医療従事者、職員全体の健康を守る取り組みが求められています。例えば、職員食堂での健康的な食事の提供や、ジムの設置などがあげられます。特に医師ですが、医療従事者全体おいて、自分自身の健康を考えることは患者さんのためにもなるということも考えるような価値観を浸透させていくと自然に改善すると思っています。そのためにも、様々な発信を今後も続けたいと思います。

 

(聞き手/北森 悦)

 

参考文献

1.和田耕治, 吉川徹, 後藤隆久,平井愛山, 松島英介, 中嶋義文,赤穂理絵, 木戸道子, 保坂隆. わが国の勤務医の喫煙、飲酒、運動、食事の習慣の現状.日本医師会雑誌 2010;139(9),1894-1899.

2.和田耕治.医師の健康に関する国際会議.医学界新聞第2816号p2.2009

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02816_02

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医師プロフィール

和田 耕治  産業保健修士

医師 医学博士
国立国際医療研究センター国際医療協力局の医師。2000年に産業医科大学医学部卒業、臨床研修を経て、企業での専属産業医を務める。2006年にMcGill(マギル)大学産業保健修士修了、2007年に北里大学大学院労働衛生学医学博士号を取得、同年4月、北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教に就任。2009年9月より同大学講師、WHOコンサルタントを務め、2012年より北里大学医学部公衆衛生学准教授 2013年8月より現職。

和田 耕治 
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