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5年生存率50% 肺移植の課題に取り組む

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肺移植後の5年生存率は世界的に見ても50%と半数程度に留まっています。その原因と考えられているのが、移植後の慢性拒絶。そして、慢性拒絶の原因解明の研究は、なかなか進んでいないのが現状です。それを解決するために、自ら研究費調達をしながらドイツで研究に取り組もうとしている中桐伴行先生。具体的にどのような研究をしているのでしょうか?

◆マウスで、肺移植後の慢性拒絶モデルを作る

肺移植後の慢性拒絶の基礎研究のため、マウスによる動物モデルを作る研究を行っています。なぜこの研究をしようと思ったかというと、肺移植後の5年生存率が50%程度である原因の一つと考えられている慢性拒絶に関する研究が進んでいないからです。理由として、研究を医療に結びつけるだけの確実性を持った動物の実験モデルがなかったのです。

それが最近になって、マウスの肺移植のテクニックが開発されました。岡大、岡崎幹生先生がマウス同所性肺移植モデルを開発され、それを応用して千葉大の鈴木秀海先生がインディアナ大学に留学中、慢性拒絶モデルの1つを発表されました。

鈴木先生のモデルは系統が近いマウス同士で移植をすることで慢性拒絶を起こすようにしています。しかし、論文中でも残念ながら40%のマウスにしか認められません。実際に私もやってみたところ、ほとんど急性拒絶が起こって慢性拒絶は得られませんでした。

これは論文が間違っているいうのでなく、同じ系統の中でも全く表現型が同じであるというわけではないので、なかなか同じ条件に合わせることが難しいということを表しています。その為、同じマウスの組み合わせであるのに100%慢性拒絶が起こるのではなく、40%しか起こらないのです。

これでは慢性拒絶のモデルとして、一般的に使えるとまでは言えません。そこで私は、慢性拒絶モデルを作る研究を突き詰めていきたいと考え、いろいろな系統のマウスで肺移植をし、免疫抑制剤を投与して、出来るだけ高い確率で慢性拒絶を起こす組み合わせと、免疫抑制剤の量を探しています。

◆研究の課題

やっていることは簡単です。移植をして、薬を投与して、一定期間を置いてからその肺を摘出して、慢性拒絶が起こっているかどうかを診る。マウスの組み合わせだけで探すとなると、どうしても特殊なマウスが必要になってきます。また発生率もばらつきます。そこで、ある程度の急性拒絶が起こる組み合わせに免疫抑制剤を加えることで、各施設で調節できるベースを作ろうと考えています。

ただ、研究を進めていくにあたって、多くの課題があります。研究自体における課題の一つは、マウス同士の組み合わせです。どの組み合わせを使うかというのは重要です。

そして、免疫抑制剤の量とその期間、また、いつ肺を摘出すればいいのかという点も課題です。なぜなら、免疫抑制剤を投与すると免疫反応がある程度抑えられてしまい、慢性拒絶が完成する時期がずれてくるからです。CTを用いてある程度予測しようと考えていますが、CTで分かるような拒絶はかなりきつい急性拒絶であり、マイルドな反応である慢性拒絶はCTでは分からないのではないかと予想しています。そのため、最終的には数をこなしていくしかないのではないかと考えています。

そのように数をこなすためには、研究資金も必要になってきます。ドイツでの研究員にはなれましたが、研究費は申請できません。幸いにも、顕微鏡やマウスの肺を評価するためのCT、研究補助メンバーは共同で使えるように配慮してもらえ、練習用のマウスの調達まではできました。材料は揃ったものの、それを使って研究を進めていく費用、例えばマウスの飼育費やCT撮影費はなく、研究継続のためにクラウドファンディング(https://academist-cf.com/projects/?id=26)も用いて資金調達をしている状態です。

このように課題が山積しているため、肺移植後の慢性拒絶の研究は、医療での実用化に関しては、見通しがたっていません。しかし、どこの施設でも汎用できる安定した動物モデルを完成させることで、それをベースに研究が一気に加速し、肺移植後の治療で実用化できること期待しています。

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医師プロフィール

中桐 伴行 呼吸器外科

Hannover医科大学胸部心臓血管移植外科研究員
大阪大学呼吸器外科招聘教員
大阪府立成人病センター病院特別研究員
1998年近畿大学医学部卒業。大阪大学旧第一外科・小児外科にて研修を行い、大阪府立母子医療センター、宝塚市立病院、呉医療センターなどで勤務。2005年~2014年まで大阪大学呼吸器外科で勤務。2006年から約1年間、Hannover医科大学に留学し、肺移植に触れる。以後、研究は肺移植を中心に従事。2014年、大阪府立成人病センター呼吸器外科副部長。2015年7月より現職。

中桐 伴行
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