「気づく」だけでいい?! 恐怖を克服し“一流”の人生を歩むために
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◆一流の人も、あなたと同じように恐怖を感じる
人は生きている限り、多くの恐怖と向き合っています。失敗への恐れ、孤独への恐れ、拒絶への恐れ、リスクを負うことへの恐れ、不安定さへの恐れ……。わき起こる恐怖を挙げたらキリがありません。恐怖が生まれる現象からは、誰も逃れられないのです。
誰もが恐怖を抱くということは、「恐れを生み出すメカニズム」が私たち人間に備わっているということです。しかし、“一流”と呼ばれる人たちは、恐怖を上手く克服し、自分が本来持っている力を最大限に発揮しています。
京セラの創業者稲盛和夫氏、大リーガーのイチロー選手には、恐怖はないのでしょうか。プロテニスプレイヤーの錦織圭選手や、レスリングの吉田沙保里選手、あるいは将棋の羽生善治名人は恐怖を感じないのでしょうか。
そんなはずはありません。稲盛氏が会社を発展させていく過程において、錦織選手が世界のトップ10に入るまでの過程において、吉田沙保里選手がオリンピックで三連覇を達成するまでのプロセスにおいて、恐怖を感じなかったはずがありません。勝負の世界で生きる彼らは、常に負けることへの恐れ、バッシングされることへの恐れ、スランプへの恐れ、年をとることへの恐れ、ライバルとの戦いへの恐れなどの恐怖と向き合ってきたはずです。
なぜ彼らは満足のいく結果を出し、自分らしさを発揮して「ハイパフォーマンスな人生」を実現できているのでしょうか。
そこには、心を「マネジメント」し、恐怖を「克服」する術があるのです。
◆恐怖は“能力を下げるノンフロー状態”を生み出す
恐怖に支配されている自分を想像してみてください。きっと最高のパフォーマンスを発揮することはできないはずです。思考や行動の質は下がっているでしょう。学習効率も下がるでしょうし、アイデアもわかないでしょう。
恐怖は、心理学的に言えば「ノンフローな状態」を引き起こしています。ノンフローな状態とは、心がゆらぎ、とらわれている状態のことです。心が乱れているため、当然ハイパフォ―マンスは期待できません。そのため、勝ち負けがはっきりしているスポーツや将棋などの世界で生きている人は、このようなノンフローな状態に気づきやすく、またそれを克服しなければ生き残れないことにも気づいています。
一方で、勝負の世界に生きていない一般の人々はこういった状態に気づきにくいと言えます。しかし誰もが、このノンフロー状態を克服するべきだと私は考えます。なぜなら、私たちの人生自体がスポーツの試合、もしくはゲームと同じようなものだと言えるからです。
つまり、人生においてもスポーツやゲームと同じように、「恐怖によってわき起こるノンフロー状態」をうまくマネジメントすることで、一流の人生を歩むことができるようになるのです。
◆暴走する進化した脳
そこで、いかに感情をマネジメントして、心の状態を切り替えて行動の質を高めていくか、ということが重要になります。マネジメントするとは、恐怖の感情を起こさないようにするのでも、無理やり押さえつけるのでもなく、感情をコントロールするものでもありません。恐怖とうまくつきあって、心の状態を切り替えていくことなのです。つまり「心が揺らがず・とらわれず、きげんの良い状態」、新しい「フローな感情」を生み出していくのです。
そのためにまず大事なことは、恐れを生み出す脳の機能の暴走を鎮めることです。脳が暴走し、次から次へと恐怖の感情をつくり出している状態のままでは、フローな感情など生むことはできないのです。この暴走をマネジメントすることこそが、パフォーマンスを向上させるための第一歩と言えるのです。
≫次ページ:恐怖を感じる脳の暴走を鎮める方法とは?
医師プロフィール
辻 秀一 スポーツドクター
エミネクロスメディカルクリニック
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学び、1986年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。1991年NPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドを設立、代表理事に就任。2012年一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げた新リーグNBDLのチーム、東京エクセレンスの代表をつとめる。日本体育協