コミュニティデザイナーに学ぶ、地域住民の巻き込み方
記事
◆コミュニティデザインを始めた理由
山崎亮さんは、建物や公園など「ハード」のデザインではなく、コミュニティ=「ソフト」をデザインしていくstudio-Lを立ち上げ、全国でコミュニティデザインを手掛けています。コミュニティデザインを始めたきっかけは、阪神淡路大震災でした。
山崎さんは関西地方で都市計画を学んでいた時に阪神淡路大震災を経験。建築にこれから携わろうとしていた山崎さんにとって、建物が人を殺している現実は大きなショックでした。一方で避難者が集まった公園では、親を亡くした人が子どもを亡くした人を慰めている―。そのような人間同士のつながりに可能性を感じ、普段からこのようなつながりが生まれる環境、人と人とのつながりをつくるデザイナーになろうと決意されたそうです。しかしながら、どうしたらそのような建築家になれるのか分からず、約10年は設計事務所で住民参加型の建築設計をしていました。
そんな時に、日本の人口が減少していくことを知った山崎さん。人口が減るということは、建物がどんどんいらなくなり、建築家の数も今ほどいらなくなるのではないか―?そう考えた山崎さんは、建築の知識や技術を生かせるけれども、設計する以外の道も考えておかなければと思いました。そして2005年に建築物は作らず、地域の人を集めて地域の課題を話し合うデザイナーとして、集まった人が話し合い地域の課題を解決する手伝いをするためのstudio- Lを設立しました。
◆コミュニティデザインが求められている理由
studio-Lには、自治体や行政からの依頼が数多く舞い込んでくるそうです。また、近年は医療機関をはじめとする医療介護保健分野の依頼も多いとのことでした。病院リニューアルや生活協同組合からの依頼など、いくつかの事例を挙げてもらいました。共通しているのは、必ず地域住民参加型でデザインを詰めていくこと。これが山崎さんの取り組むコミュニティデザインの特徴です。
戦後、人口が大きく増え税収も増大していた時代は、行政が民間企業のようにどんどん何でもやってくれていました。ところが人口構成の変化から、地域のことは地域住民が自分たちで考えなければいけない時代がやってきました。そのため、地域住民が参加する「地域づくり」が必要になり、コミュニティデザインが求められるようになったのです。
地域包括ケアについても同様です。地域住民が「あれやれ、これやれ」と言っても、もはや行政には実現できません。行政や地域包括支援センターの役割は、地域住民に地域包括ケアを進めるのは地域住民自身なのだと理解してもらうことだと、話されていました。
◆コミュニティデザインの進め方
イベント後半には、studio-Lが依頼を受けた案件について、どのように進めていくのかを簡単にお話いただきました。
【現場】
1,地域を理解するためのヒアリング。クライアントに地域で面白い人を10人紹介してもらって実際に会い、どんな活動をしているか、困っていることは何かを聞く(1日5件程度)。そして面白い人を3人紹介してもらう。そのようにして100人くらいに話を聞いていくと、地域の人脈が理解でき、信頼関係もできる。
2,ワークショップを開く。これまでにヒアリングした方と、一般公募の合計で140人程度集まる。地域で面白いと一目置かれている人たちとはすでに信頼関係ができており、会場でも仲良く会話をすることで、一般公募で参加されている方が参加していても、比較的スムーズにワークショップを開催できる。
3,チームごとに地域でどんなことができるかを考えてもらいチームビルディングを行う。
4,出た意見をもとに、アクションを起こしてもらい、studio- Lが適宜サポートする。
【現場に連動し事務所ですること】
1,ヒアリング期間:地域にまつわる情報(人口、文化、変遷、地形、環境等)インターネット上で知り得る情報を収集する。
2,ワークショップ期間:依頼期間を加味しながらどこまでできるか考え、コミュニティデザインのプランを練る。
3,チームビルディング期間:コミュニティデザインの具体的デザインを練っている。
4,アクション期間:適宜サポートに入る。
◆地域住民に動いてもらうには?
地域住民に動いてもらうには、理性と感性のバランスが重要だと言います。人は、正しさ=理性に訴えかけられるだけでは動きません。楽しさや美しさ=感性に訴えかけることも大事です。「医療費が増大していて、日本の社会保障が破たんするから地域包括ケアが必要だ」と理性だけに訴えかけられても人は動きませんが、このような事例が多いのが事実です。
「楽しいとか面白いと思う発想は、デザイナーでないからできない」と思わないでくださいと、山崎さんは言います。アートやデザインに少しでも興味を持っていれば、見様見真似でアイデアは出てきます。
例えばチラシ作成の際は、美術展の告知チラシを真似する、街中を歩いているときにも、町中にデザインがあり、どこでも勉強できます。つまり、少し興味を持ってみれば、自分たちのクリエイティビティを少しずつ変えることは可能なのです。
そして、コミュニティデザインのスキルを一番伸ばす方法は、事例のインプット。studio-Lのデザイナーたちも、膨大な量の事例をインプットしてスキルを上げていくそうです。圧倒的なインプットが必要というと、ハードルが高く感じるかもしれませんが、インターネットからいくらでも情報を仕入れることは可能です。
事例のインプットができていれば、住民参加型で地域包括ケアを考えていくとき、地域住民のどの意見が成功して行くか判断することができるようになります。そして地域住民から出たアイデアで地域の課題が解決していけば、それが本来の意味での地域包括ケアになるのではないでしょうかと、締めくくられていました。
「PRESENT」でもこれまで、株式会社あおいけあ代表取締役の加藤忠相さんや、株式会社恋する豚研究所代表の飯田大輔さんの事例を学んできました。このような事例を一つひとつ学んでいくことが、地域を巻き込む力を養うことにつながっていくのです。
医師プロフィール
田中 公孝 家庭医
2009年滋賀医科大学医学部卒業。2011年滋賀医科大学医学部附属病院にて初期臨床研修修了。2015年医療福祉生協連家庭医療学開発センター (CFMD)の家庭医療後期研修修了後、引き続き家庭医として診療に従事。医療介護業界のソーシャルデザインを目指し、「HEISEI KAIGO LEARDERS」運営メンバーに参加。イベント企画、ファシリテーターとして活躍中。