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予防医学のモデルに。竹富島の「ぱいぬ島健康プラン21」とは?

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2017年11月に厚生労働省主催「第6回 健康寿命をのばそう!アワード」の生活習慣病予防分野で、厚生労働大臣最優秀賞を受賞した「ぱいぬ島健康プラン21。」沖縄県の離島の1つ、竹富島の1人医師として働く石橋興介先生が、生活習慣病予防のため、島民と一緒に取り組んできたプロジェクトです。具体的にどのような活動を行ってきたのでしょうか?その中身を詳しく紹介します。

「ぱいぬ島健康プラン21」には大きく2つのテーマがあります。「体を動かす健康づくり」と「心と頭の健康づくり」です。

それぞれのテーマに基づき取り組みを企画していきますが、企画・運営メンバーには診療所のスタッフのみならず、島のコミュニティや組織のリーダー、トップの方に委員になってもらい、推進委員会を結成しました。初動期はどの取り組みにも少なからず診療所が関わりますが、診療所のスタッフがパンクしないよう、徐々に各推進委員が主導できるように任せていきました。

そして、推進委員には疫学データも共有。それに基づいてどんな活動が必要か議論して企画し、住民を巻き込みながら実施、振り返りをしながらブラッシュアップしています。

メインターゲットは、糖尿病・高血圧症・脂質異常症の3つを持っている方。この方々に、いかに参加してもらうかが重要です。どのように参加を促してきたかというと、毎月採血して結果を全て見せて、自分の健康状態を把握してもらう。そうすることで、悪化していれば危機感を持つきっかけになりますし、逆に数値が改善されていれば嬉しくなります。

まだ各活動の参加メンバーは日により幅がありますが、このような仕掛けが活動へのモチベーションアップにつながっていきました。また冒頭説明したように、島民主体の活動に移行していくことで、島民に自覚が芽生え、主体的に健康づくりに参加してもらえるようになりました。これが「ぱいぬ島健康プラン21」成功のポイントだと思っています。

◆体を動かす健康づくり

体を動かす健康づくりでは現在、6つの取り組みを行っています。歩け歩け運動・JOYBEAT・体力測定会・三世代ゲートボール・清掃活動・健康体操教室の6つです。

【歩け歩け運動】

最初に始めたのは「歩くこと」でした。島の主要な産業は観光業。ちょっとした距離でもお客さんを車で送迎するので、島民自身にも歩く習慣がなくなっていました。また亜熱帯気候なので、室内は常にエアコンをきかせている状態で、外に出たいと思わない環境ができあがっていました。これが生活習慣病の原因になっているのではないかと思い、まずは歩くことを習慣にできるような活動を始めました。

リーダーは小中学校の校長先生。毎週火曜日を、子ども達も含めた島民全員で、学校の周囲を1時間程歩く日に決めました。火曜日にした理由は、「火」から連想して「脂肪を燃やす」イメージを持ちながら取り組んだら、やる気が出るのではないかと思ったからです。

最近では、「学校の周囲を歩く」から「どこを歩いてもいい」というルールに変更しました。なぜなら、ターゲット層にも歩く習慣ができてきたからです。

【JOYBEAT】

最近導入が決まったのが、JOYBEATです。これは映像を見ながら同じ動きをしていくと、自然と全身の筋肉をまんべんなく動かし、カロリーを消費することができます。最大のポイントは、立っていても座っていても、同じ動きができること。もともと診療所の患者さん向けに行っていたのですが、患者さんだけではもったいないと思ったことと、歩け歩け運動に少し飽きがきていると思い、新たに導入しました。

現在は第3木曜日をJOYBEATの日として島民と共に活動しています。また、やはり若い世代にも来てもらいたいので、今では青年会に運営を任せています。

【体力測定会】

体力測定会では反復横跳びや握力測定、長座体前屈など、中学時代に行ったことがあると思いますが、自分の体力レベルを把握してもらいます。こちらも名前が肝です。体力測定会と言うと、島の若い世代も来てくれるんですね。つまり、普段は診療所に来ない層の人たちも集まります。私たち診療所のフタッフは、血圧測定器などを持って行っていると、生活習慣病予備軍の人たちを拾い上げることができるのです。保健師さんにも来てもらえば、保健指導もセットでできてしまいます。ここで生活習慣病予備軍が結構ひっかかりました。

【三世代ゲートボール】

三世代ゲートボールは、私が赴任する前から行われていたイベントでした。年に1~2回の開催ですが、開催1カ月前からチームを組んで、しっかり大会に向けて練習をするんですね。そして世代を超えた交流が可能なので、今でも続けています。

【清掃活動】

リーダーは公民館長です。月に2回、島全体を島民全員できれいにしています。観光産業がメインの島ですから、きれいにこしたことはないですし、清掃は結構動くので一石二鳥です。

【健康体操教室】

毎回、島外からさまざまな講師を呼んで開催しています。そのため他の取り組みに比べてお金がかかってしまうので、1年に3回程度の開催です。これまで、ヨガ講師や整体師などを呼んで、全身の筋肉をほぐしたりリフレッシュしたりしています。

◆心と頭の健康づくり

心と頭の健康づくりは、7つあります。医療講話・保健指導・禁煙外来&喫煙防止教室・古謡教室・心肺蘇生法講習会・料理教室・ヘルスメイト養成講座です。

【禁煙外来&喫煙防止教室】

喫煙者には禁煙外来を積極的に促しています。また私が小中学校に出向き、喫煙防止教室でタバコの害を話し、それを家に帰って親に話してもらう。それで禁煙に成功した例もありました。

あとは、タバコの自動販売機を島から全て撤去しました。竹富島は年間50万人の観光客が来て、タバコのポイ捨てが結構多かったです。タバコの自動販売機を全て撤去することで島の美化にもつながりますし、タバコを目にする機会が減り、禁煙につなげられると考え、実施しました。

苦労したのは、店舗販売の停止。竹富島にはタバコの販売を2店舗が行っていました。1店舗はすぐに停止してくれたのですが、もう1店舗は店主がヘビースモーカーだったので、販売停止をなかなか受け入れてくれませんでした。保健師さんから「とりあえず禁煙外来に行ってみましょう」と、その店舗の方を説得してもらい、最終的には店舗販売を停止することができ、竹富島内のタバコ販売がゼロになりました。

当然、島民からの反発もありました。しかし、どうしても吸いたい人は、週1回石垣島に食材を買いに行く時に一緒にまとめ買いをしてほしい、とお願いしています。まだ全員禁煙には至っていませんが、喫煙者の約35%弱の方の禁煙に成功しました。

【心肺蘇生法講習会】

診療所は、医師の私と看護師1名、事務1名の計3名で運営しています。救急搬送には島の消防団の力が必要です。消防団の方々はそれぞれに自分の仕事を持ち、ボランティアで活動してくれているので、医療知識はほとんどありません。ところが緊急時には手伝ってもらいたいことがたくさんあるので、皆さんに心肺蘇生の資格を取ってもらっています。

資格取得後、ある消防団の方は那覇市内を訪れていた時に心肺停止の方を助けて、那覇市の消防署から表彰されたことがありました。資格を取得してもらうことで、消防団としての自覚が出てきていて、頼りになる存在になっています。

【医療講話】

インターネット上に間違った情報が出ていて、それを信じる人がたくさんいるんですよね。そのため、なるべく正しい情報の発信を目的に行うようになりました。疫学データをもとに島民のニーズに合わせて島外から講師を呼び、年間5回程のペースで実施しています。私が赴任してからは、18回開催しました。

最初の頃は、元気な高齢者しか来なかったのですが、徐々にわたし達がターゲットにしている層、つまり60代くらいの方たちも来てくれるようになり、今ではターゲット層のほうが多いくらいです。少しずつ、若い世代にも健康づくりが認知されてきたと感じています。

【保健指導】

診療所と町役場が組んで、家庭訪問を定期的に行っています。対象者は、未治療の人、検診を受けていない人、そして治療中でもコントロール不良の人。保健師さんの頑張りにより、保健指導実施率と検診受診率が共に、同規模調査(5000人未満の市町村は、約220ある)と比べ、いい値が出ています。

【料理教室】

町役場の栄養士さんに来てもらって、生活習慣病を予防する料理の方法を教えてもらっています。しかし、竹富町は9つの有人島で構成されているので、竹富島に来るのは年に2回が限度になってしまっています。

【ヘルスメイト養成講座】

料理教室が不定期開催になってしまっていることに問題を感じ、始めたのがヘルスメイト養成講座です。ヘルスメイトとは、国が認定している食生活等改善推進員という資格を持ち、食を通した健康づくりのボランティア活動を行います。料理実習も含めて20時間程度の講習を受けることで認定されます。

ヘルスメイトがいれば、町役場の栄養士さんにお願いしなくても、料理教室を定期開催できる。そう考えて養成講座を実施、19名の方が取得しました。そして、2018年7月にはヘルスメイトにより、島民で生活習慣病の方を対象に料理教室を開催しました。

【古謡教室】

65歳未満の人の死亡率が高い竹富島では、今後どうしても島の文化や歴史、自然を残し続けることが難しくなってくると考えました。そこで運営を老人会にお任せして、毎月10日と25日に、古謡教室を始めました。この教室の中には三線教室もあり、意外と若い人たちも来てくれるようになっています。古謡や楽器の演奏は運動にもなりますし、伝統も残せるので「ぱいぬ島健康プラン21」に入れています。

これらの活動により、竹富島全体の喫煙率が35%減少しました。また特定検診受診率56.7%(同規模町村調査38.5%)、特定保健指導実施率51.9%(同規模町村調査6.6%)になっています。

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医師プロフィール

石橋 興介 

竹富町立竹富診療所 福岡県出身。岩手医科大学を卒業後、沖縄赤十字病院にて臨床研修を修了。その後福岡県内の医療機関に勤務していたが、2015年4月に竹富町立竹富診療所に赴任、2018年6月より岩手医科大学 医学部 救急・災害・総合医学講座 総合診療医学分野の非常勤講師を兼任、現在に至る。赴任後から取り組んでいた「ぱいぬ島健康プラン21」が2017年11月、厚生労働省主催「第6回 健康寿命をのばそう!アワード」の生活習慣病予防分野で、厚生労働大臣最優秀賞を受賞した。

石橋 興介
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