医師8年目の福田芽森先生は、循環器内科として勤務する中で感じた課題に対して、精力的にアプローチしています。どのような課題を感じ、どんな活動を始めたのでしょうか?
◆循環器内科医、産業医、医療情報の発信者
―現在取り組んでいることを教えていただけますか?
現在は、主に3本の軸を持って活動しています。
1つは臨床医。2017年から慶應義塾大学循環器内科で勤務しています。もともと初期研修医の時から東京医療センターに勤務していたのですが、循環器内科に進み、心臓のエコー検査の知識とスキルを高めたいと思い、今の職場に勤務しています。
また、入局の少し前から、産業医としても活動を始めました。これが2つ目です。現在は、従業員が50~100人程のベンチャー企業約10社の産業医をしています。それぞれの企業に月1,2回足を運んで、産業医面談や安全衛生委員会への参加などの業務を行っています。
産業医を始めて1年半ほど経ち、社員の方とのコミュニケーションもしっかり取れるようになってきました。健康診断の結果を見て、この人は必ず二次健診を受けてほしいと思う社員がいたら、その上司の方から二次健診に行ったか情報共有してもらっています。また、部下の健康問題について個別に対応方法を相談されることもあります。あとは、受動喫煙を避けるための対策にも、積極的に協力してもらえるようになってきました。
そして3つ目の軸が、情報発信です。Webメディアで論文ベースの医療情報の記事を執筆することと、セミナーという形で情報発信をしています。
情報が溢れかえっている現代では、医療情報も量は多いものの、その質は玉石混交です。間違った医療保情報により、意図せず不健康になってしまう、もしくは不利益を被ってしまうような状況もあり、医師として論文に基づいた正確な医療情報を少しでも知ってもらうことが、広義の医療になると考えたのです。
セミナー形式の発信で今一番力を入れているのは、「死を語り合う」ことをテーマにしたものです。2~3カ月に1回ペースで開催していて、これまでに10回弱開いてきました。ワークショップ形式にしているので、各回の人数はあまり多くならないように設定していて、毎回15~25人程度にしています。
◆循環器内科で感じた課題
―循環器内科医として大学病院に勤務する傍ら、産業医や情報発信など、他の活動も積極的になさっていますが、なぜそれらの活動を始めたのですか?
Webメディアの記事執筆に関しては、今お話したとおりですが、産業医や「死を語り合う」セミナーでの情報発信は、循環器内科医として働く中で感じた課題が原点です。
大きな病院に勤めていると、かなり重症で、いつ亡くなってもおかしくない、心筋梗塞などの循環器疾患で救急搬送されてくる患者さんが多いです。このような重症疾患は、高血圧や高コレステロール、糖尿病、喫煙などを長年放置して、生活習慣病になり、その最悪の結果として起こります。このような動脈硬化のリスクが多い方は、若くても心筋梗塞を発症する可能性があります。
病院の外には、症状コントロールができていなかったり、健康に関心がなく不摂生をしていたりする人がたくさんいる。徐々にこのことに意識が向くようになりました。そして、そのような人たちが、病気になって初めて病院に来るのでは遅すぎるから、元気なうちからアプローチしたいと思うようになり、働く人の健康を守る産業医を始めました。
「死を語り合う」セミナーについては、高齢患者さんが瀕死の状態で救急搬送されてきた時の状況を見て始めました。高齢患者さんが救急搬送されてくると、心臓マッサージをはじめ救命治療をするかしないかの判断を、多くの場合は娘さんや息子さんなどご家族に伺います。瀕死の状態であることを伝えてからその判断を伺うのですが、「そんな風になるとは思わなかった……」と戸惑われる方が非常に多いです。そして、心の準備もできていないままに、治療をするかしないかの判断を迫られると、「できることは何でもやってください」と答える方も多いです。
熟考した結果ならよいのですが、何も考えられずにこのような判断となり、結果として患者さん本人とご家族にとって、必ずしも幸せな結果にならないケースも多く見てきました。そうなってしまう背景には、元気な時に、死について考えたり話したりする文化がないからだと思いました。日本では死をタブー視し、あまり話題に上げることがありません。しかし、人間は死亡率100%。全くタブー視することではないと思うのです。
むしろ死を考えることで、自分の人生は有限であることを意識し、生をより意識することにつながります。だから死に備えて、自分の死に対する考えを整理し、大切な人と話すことは、生きる力を強めてくれるポジティブなことなのだという文化をつくっていきたいと思い、セミナーを始めました。
◆自分の興味のあることに邁進する
―今後のご自身のキャリアは、どのように思い描いていますか?
そこに関しては、今まさに悩んでいるところです。臨床から離れることは考えていませんが、産業医としてのやりがいも非常に感じていますし、情報発信にも力を入れていきたいです。
軸を1つに定めて、病院で臨床医として専門性を高めていくことも非常に重要なことですが、医療は、病院の中で完結するものではないと強く感じています。それこそ、実際に地域医療実習で出会った先生は、診療を病院や患者さんのご自宅で行うのはもちろんのこと、地域のスキー場が閉鎖されると聞けば、「地域住民の健康を守るためにはスキー場が必要」と言って、スキー場を買い取り、閉鎖を回避したり、ご自身でスポーツジムを作られて、地域住民の健康促進に貢献したり、医療政策にも携わったり――。病院の中で完結せず、地域全体を見ていました。
そして今は、病院の外にも目を向け、さらには未来をも見据えて挑戦している若手の医師がたくさんいます。だからこそ、私自身も広い視野を持てる環境に身を置きたいという思いもあります。
このように、具体的にどんなキャリアを積んでいくか、明確には定まっていませんが、1つだけはっきりと言えることがあります。それは、10年後にやりたいことをやっている自分であってほしいということ。だから今も、興味のあることに対して、力を注いでいければと思っています。
(インタビュー・文 / 北森 悦)