鹿児島大学医学部を卒業後、沖縄県立中部病院での研修初日にプライマリ・ケアの道に進む決意をした石坂真梨子先生。医師6年目の石坂先生は現在、沖縄・小浜島で離島医療に従事しています。プライマリ・ケアを築いてきた先輩方の意志を受け継ぎたいと語る石坂先生の今後の展望とは――?
◆初期研修初日に固まった決意
―医師を志ざし、プライマリ・ケアの道に進んだ理由を教えてください。
最初小学生の頃は、心と体のつながりに漠然とした興味があり、カウンセラーになりたいと思っていました。しかし、成長するにつれて介入の幅が広いことに魅力を感じて医師を目指すようになりました。医学生時代は、1つの診療科に絞らなければいけないと思いつつも、目の前で困っている人を年齢や内容に関わらず、診られるようになりたいという気持ちが強く、結局1つの科に絞ることができずにいたんです。
プライマリ・ケアの道に進んだきっかけの1つは、母校の鹿児島大学が提携していたマイアミ大学への留学プログラムに参加させてもらったことでした。
鹿児島県は日本の本土最南端、アメリカ・マイアミもアメリカ本土の最南端という縁で、1年間の留学プログラムがあったんです。そのプログラムへの参加を通じて出会った先輩の1人が沖縄県立中部病院のOBであり、ある時、診療科を絞りきれないモヤモヤをお話したら「沖縄県立中部病院を見学してみたら?」とアドバイスしてくださったのです。
実際に見学してみると、研修医がすごく忙しそうに働いていたのですが、生き生きとしていて――。「研修医のうちは、こんな風に苦労して学んだ方がいいかな」と思い、沖縄県立中部病院で初期研修を受けることを決めました。
―沖縄県立中部病院の総合診療科コースに進まれたのですね。
いえ、実は、総合診療科コースではなくて内科コースに入ったんです。当時、総合診療科コースの研修期間が5年間で、もし入って合わなかったら5年間は辛いと思い、研修期間が2年間の内科コースにしました。
しかし研修初日、総合診療科の上司の先生のお話を直接聞いて「やっぱり自分のやりたいことはこれだ!」と思い、すぐに総合診療科コースに変更。プライマリ・ケアの道に進むことを決めました。
◆プライマリ・ケアの醍醐味が味わえる離島医療
―現在、総合診療科コース6年目の石坂先生。2019年4月から離島医療研修で、小浜島の小浜診療所に勤務されています。1年半、離島診療所を経験していかがですか?
こんなに若くして自分がやりたいことを経験させてもらって、とても幸せな環境だと思っています。医師として、患者さんが子どもでも大人でも妊婦でも、どんな疾患でも初期対応がきちんとできる医師になりたいと思い続けてきて今、そのための経験が積めているので、とても幸せです。
―離島医療の魅力はどのような点にあると思いますか?
プライマリ・ケアでは、目の前の患者さんだけでなく、家族背景を含めて家族を丸ごと診ることを教わります。離島ではそれが自然にできてしまうんですね。
例えば先日、90代女性患の方をお家でお看取りさせて頂きました。その方の50~60代の子どももお嫁さんも、孫も、ひ孫も親戚丸ごと、みなさん何かあれば診療所に来られます。ですから1人の患者さんを目の前にすると、その背景にはあっという間にファミリーツリーが描けるわけです。このような環境は離島ならではだと思いますし、若手なのにこのようなプライマリ・ケアの醍醐味を味わえていることが大きな魅力ですね。
また自分も一島民なので、道端の立ち話などで「こないだの治療よかったよ」「この前の治療では全然効かないから何とかしてよ」といったフィードバックが直接自分に返ってきます。これも魅力の1つに感じています。
―逆に大変だと感じることはどのようなことですか?
離島では島民との信頼関係が1度崩れてしまうことは、島民のみなさんにとっても医師である私自身に不幸なことです。島民が島の診療所を受診しにくいとなると、はるばる島外の別の病院に行かなければなりません。私としてもその人の様子が分からず、重症になったときに普段から診ていないがために適切な処置が遅れるかもしれません。
ですから、診療中のちょっとした違和感など、信頼関係に亀裂が生じそうなことをそのままにしないよう細心の注意を払っています。信頼関係を維持することに対しては、日々真剣勝負ですね。
◆プライマリ・ケアを築いた先輩方の意志を後輩につなげる
―2020年度いっぱいで小浜診療所での研修を終えます。今後の展望はどのように描いていますか?
私の出身は宮崎県えびの市で、夫は沖縄県。ですから宮崎と沖縄をベースに家庭医として働いていきたいと考えています。
私の故郷・えびの市は人口が2万人を切っていて、毎年新たに生まれる子どもの数も100人を割り込み、過疎化が進んでいます。今の自分を育ててもらった故郷の活性化に少しでも貢献できるように、医師としての何らかの形で還元していきたいです。
また私は今、プライマリ・ケアという概念がだいぶメジャーになってきた今の時代に目指した道に進むことができています。今こうしてプライマリ・ケア領域が充実し、恵まれた環境で研修できているのは、この土台を築いてきてくださった先輩方がいてこそ。そして先輩方の中にはへき地で活動しながらも、グローバルに発信されている、いわゆる「グローカル」な素晴らしい先輩方がたくさんいらっしゃいます。
このような先輩方の意志を少しでも受け継ぎ、自分なりの付加価値をつけて後輩たちにつないでいく。これが私の使命なのではないかと思っています。今回のように機会を得て離島医療やプライマリ・ケアの魅力を発信したり教育に携わったり、具体的な方法をこれからも模索し取り組んでいきたいですね。
(取材・文/coFFee doctors編集部) ※掲載日:2020年11月17日