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「医療化」がもたらす弊害[1]

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記事

自宅でするのが普通だった出産が病院で行われるようになり、老化による認知機能の低下が「認知症」という病気として治療の対象になる――。「医療化」がもたらすものとは?

 

 

「医療化」(medicalization)という言葉を、みなさんはご存知でしょうか?

ヘルスコミュニケーションに詳しい聖路加国際大学中山和弘教授のウェブサイト「健康を決める力」(http://www.healthliteracy.jp)の解説では、

『以前は医療の対象とは見なされなかった、宗教、司法、教育、家庭などの社会生活のなかで起こっているとされてきたさまざまな現象が、次第に医療の対象とされるようになっていくこと』と説明されています。

例えば「出産」という行為を考えてみましょう。

昔は日本においても産婆の介助のもと、自宅で出産することが普通でした。しかし近代以降、設備の整った医療機関での出産が奨励され、医師の管理下で高度な医療技術により行われるようになりました。

出産の過度の「医療化」に対しては、女性の身体と自己決定権の抑圧につながるという批判もあります。看護師である私の妻は、第一子と第二子を病院で産みましたが、機械的で管理された出産の体験が心地よいものではなかったようで、第三子は助産院で産みました。

出産以外にも以下のような「医療化」の例が挙げられます。

● 「落ち着きのない子ども」が、多動症・学習障害という精神医学の対象となった
● 高齢出産の増加に伴って、子供を産むかどうかの判断に出生前診断が関与するようになった
● 老化現象と考えられていた認知機能低下が、「認知症」として診断と治療の対象になっていく
● 終末期における医学的処置の選択が社会的に強要されるようになる(延命処置に関する事前指示、臓器提供の意思表示)

これらは、現代社会の中のさまざまな意思決定場面に医学・医療の技術が組み込まれ、もはやそれを抜きにしては考えられないということを表しています。
では社会の「医療化」は、どのような好ましくない結果を生み出すのでしょうか? 次回の記事で考察していきたいと思います。

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医師プロフィール

孫 大輔 総合診療医

日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医
プライマリケア、家庭医療、ヘルスプロモーションを専門。「市民・患者と医療者の垣根を超える対話の場作りをしたい、そこから理想の健康・医療のあり方を考えたい!」 という思いから、みんくるカフェの活動を始めた。みんくるカフェHP  http://www.mincle-produce.net/

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