官民連携オンライン診療の仕組みを広げる
記事
◆地域医療に根ざしたオンライン診療を実現
ー現在取り組んでいる「オンライン診療」について教えてください。
竹田綜合病院でのオンライン診療は、2019年4月から会津若松市の事業として、医師会やIBMと連携して実施されています。受診しているのはパーキンソン病や筋ジストロフィーなど神経難病の当院の患者さんです。会津若松市在住の55名と、周辺の市区町村在住の25名、計80名。年齢層は18~83歳と幅広く、平均年齢は67歳です。
ICTのツールを使うので、高齢患者さんには難しそうなイメージがあるかもしれません。しかし、操作はいたって簡単。基本的にはタブレット端末を使っており、診療時間になったら患者さんはホーム画面を立ち上げて、オンライン診療専用のアプリをタップするだけ。すると、医師(私)のタブレット端末に、患者さんが「待機状態」と表示されます。医師がアクセスするだけで、オンライン診療を始められます。通話を終える操作は医師側しかできないようになっているので、患者さん側にその後の操作は一切必要ありません。
対面診療だとつい雑談が長引いたり、症状以外の話に飛んでしまったりして、10分以上かかるときもありますが、オンライン診療では、医師も症状など聞くべきことに集中して質問しますし、患者さんも質問に対して明確に応えるようになります。そのため円滑なコミュニケーションができ、平均5〜6分で診療が終わります。
また、オンライン診療では患者さんの「自宅内の状況」も映ります。患者さんがどのような日常生活を送っているのかを知る上で貴重な情報源です。
ー「オンライン診療」と合わせて「会津オンライン診療研究会」も発足されたそうですね。こちらでは、どういった活動を行っているのでしょうか?
会津若松市では「地域医療の充実」と「地域住民の安全・安心の暮らし」を実現するため、自治体×病院×医療関連企業×ICTによる「会津コンソーシアム」づくりに取り組んでいます。そのためにまず、オンライン診療を中心とした地域包括ケアシステムの確立を目指していて、この研究会が設立されました。
「多職種協働」を軸とした在宅医療・介護の一体化を図るため、「会津オンライン診療研究会」には会津若松医師会を中心に、喜多方医師会、福島県看護協会、福島県病院薬剤師会、会津若松歯科医師会、福島県理学療法士会などにご参加いただいています。
今後は同研究会を通じて「医師と通院が困難な患者さん」だけでなく、「薬剤師と患者さん」「訪問看護師と専門医」「救急隊員と専門医」といった、さまざまな人たちをつなげ、オンライン診療の可能性をさらに広げていく予定です。
―患者さんからのオンライン診療への反響はいかがですか?
まだ竹田綜合病院脳神経内科の一部の患者さんしか使っていませんが、患者さんやそのご家族の皆さんからの評価は高いですね。
理由の1つは移動時間がないこと。利用者が通院困難な患者さんたちなので、住まいが会津若松市内にあっても、通院のために1日休みを取らなければならないことが少なくありません。患者さんを着替えさせて車に乗せ、病院に着くと長時間の待ち時間があります。一方オンライン診療なら、待ち時間も含め10〜20分で終わります。
2つ目は経済的なメリットです。会津若松市民であれば無償でタブレットが使用できますし、市外の方でも、交通費や通院にかかる諸経費までを考慮すると、対面診療よりも費用を抑えられます。
―そもそもどのような経緯で、官民が連携したオンライン診療を始めることになったのですか?
きっかけは、順天堂大学脳神経内科科の服部信孝教授から「会津のような広くて高齢者の多い地域は、オンライン診療が合っているよ」というアドバイスをいただいたことです。順天堂大学では、2017年からIBMと協働したオンライン診療を行っていました。その経験と、会津地域の特殊性や医療事情を鑑みて、助言をしてくださったのだと思います。
実際、広い会津・南会津医療圏内において唯一の地域医療支援病院である竹田綜合病院へ通うのは、通院困難の神経難病の患者さんにとって、非常に骨が折れることでした。そこで、当時私が難病患者の在宅医療支援や介護予防教室などでつながりのあった市の職員に、すぐこの話をしました。すると1週間後には、市がIBMにアポイントをとって話を進めたのです。
私自身はオンライン診療の実現に向け、会津若松医師会や喜多方医師会、看護協会、薬剤師会などに声をかけて、賛同を得ていきました。これが「会津オンライン診療研究会」の設立につながっています。
医師プロフィール
石田 義則 神経内科医
竹田綜合病院脳神経疾患センター脳神経内科兼リハビリテーション科科長
1989年、秋田大学卒業後、竹田綜合病院にて研修。1992年に東北大学神経内科学教室に入局、同大学病院を経て、新潟大学神経内科学教室、同大学院に転入。1996年、国立療養所西小千谷病院(現・国立病院機構新潟病院)を経て、1999年より竹田総合病院脳神経内科に勤務。2002年、同院神経内科科長、2007年に脳神経疾患センター副センター長に就任。その後、認知症疾患医療センター副センター長を兼任し、現在に至る。