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安全に怖くなく小児麻酔を提供できる麻酔科医を増やしたい

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埼玉県立小児医療センター麻酔科の藤本由貴先生は、小児麻酔科医として活躍する傍ら、SAFE(Safer Anaesthesia From Education)小児麻酔コース日本代表も務めています。同コースがスタートした背景には、小児麻酔を取り巻くさまざまな課題がありました。

◆安全な小児麻酔を提供するための麻酔科医向け教育コース

―SAFE(Safer Anaesthesia From Education)小児麻酔コースの日本代表を務められている藤本先生。SAFE小児麻酔コースでは、どのようなことをしているのでしょうか?

もともと世界麻酔科学会連合(WFSA)とAssociation of Anaesthetistsが、2011年に小児麻酔のシミュレーション教育コースを開発しました。教育を通じて安全な小児麻酔を提供することがコンセプトです。発展途上国を中心に開催実績があり教育効果も検証されているコースであったので、2021年に日本版を作ることとなりました。お声がけいただき、私が代表を務めています。

日本では少子化と小児専門病院や大学病院に小児の症例が集約されているために、それ以外の病院で個々の麻酔科医が臨床ベースで小児麻酔のスキルや知識を身につけにくいのが現状です。SAFE小児麻酔コースでは、講義とオーガナイザーを中心にした症例ディスカッションを通じて、術前評価や気道管理などの基礎知識から緊急手術の周術期管理計画の立案まで、幅広く小児麻酔に関連する知識を学ぶことができます。

もともとはオンサイトのコースですが、日本版の開発がスタートした2021年がちょうどコロナ禍だったため、オンライン形式の開発も行ってきました。どのようにしたらオンサイトと遜色なく進めることができるか試行錯誤しましたが、開発メンバーと工夫してZoomや意見表出アプリなどを活用することにより、オンラインでも十分に小児麻酔の知識を学べるコースにしています。

―オンサイトとオンラインの両方のコースを開催しているということですか?

そうですね。埼玉県立小児医療センターのレジデント向けには3カ月に1回、オンサイトでSAFE小児麻酔コースを開催しています。また、学会の企画としてもオンサイト開催を予定しています。特に同じ病院で働いているメンバーがオンサイトで参加するとやはりディスカッションが盛り上がるので、同コースでの学びがより深まっていると思います。

完全オンラインの場合は、全国から参加者を集められるのが何よりのメリットです。あとは参加者がオンサイトで、講師のみがオンラインの場合もあります。今度秋田県で開催する同コースは、秋田の方はオンサイト参加、私がオンライン参加で、レクチャーやタイムキープなどコースのオーガナイズをする予定です。

地域でも持続可能な形でSAFE小児麻酔コースを開催することは、重要なポイントです。各地でSAFE小児麻酔コースを開催していく土台を作るため、キーパーソンとなる人が全国に増えることを目指しています。

◆過去の知識を呼び起こし対応…日本の小児麻酔の実情

―小児麻酔を取り巻く現在の課題について、もう少し詳しく教えてください。

小児病院に送るほどではないけれど外科的処置が必要な子どもがいた場合、地域の総合病院などで治療を受けているはずです。そのような病院では、小児麻酔を専門にしておらず、普段小児麻酔に携わっていない医師が麻酔を担当せざるを得ないことがよくあります。そんな時、麻酔を担当することになった医師は昔習った知識を呼び起こしながら対応します。さらにはそういった病院には、小児麻酔の知識をアップデートする機会のない指導医に小児麻酔を習っている研修医もいます。

よくSAFE小児麻酔コースで質問される方が「お恥ずかしながら……」「力量不足で……」とおっしゃいます。しかし、症例数が少なく十分なトレーニングを積めない環境にいるなら、小児麻酔のスキルを身につけられないのは仕方のないこと。恥ずかしがる必要は全くありません。

私のように毎日小児麻酔を行っている医師ができるのは当たり前なことですが、決して小児麻酔は一部のスペシャリストだけのものではありません。誰が行っても同じように安全に麻酔をすることができる、そのような状況にあるべきだと考えています。ところが、今は誰がどこでどのような小児麻酔を行っているのか、誰も日本の小児麻酔の全体像を把握できていないのが現状であり、教育の土台や、全国どこでも安全に小児麻酔がかけられるような土台がありません。

このような課題を解決するため、各地にSAFE小児麻酔コースの拠点となる人を増やし、普及させ、小児麻酔を安全に怖くなくできる麻酔科医が増えることを願っています。

―普及にあたって、これから課題になりそうなことはどのようなことですか?

教育コンテンツはなんでも同様の課題を抱えていると思いますが、エビデンス構築の難しさ、教育効果をどのように測るかが、永遠の課題としてつきまとってくると考えています。

ですが、日本版SAFEメンバーの中には医学教育を学んでいる方もいるので、知見を教えてもらいながらエビデンス構築をしていきたいですね。ただ普及には、やはり参加者の評価が大きな後押しになるとも思います。そのためエビデンス構築のことを考えながらも、地道に活動を続け、仲間を増やし、賛同の輪を広げていきたいですし、それが不可欠になってくると考えています。

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医師プロフィール

藤本 由貴 麻酔科医

2012年、東京慈恵会医科大学医学部を卒業。自治医科大学附属さいたま医療センターで初期研修、麻酔科研修を修了。戸田中央総合病院麻酔科を経て、埼玉県立小児医療センター麻酔科に所属。2021年からは、SAFE(Safer Anaesthesia From Education)小児麻酔コース日本代表も務める。

藤本 由貴
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