肥満対策には「眠り」の視点も必要
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心疾患や脳血管疾患を減らすためには、メタボリックシンドローム対策、肥満対策が重要です。そしてあまり多くの方がご存じとはいえないようですが、「寝ないと太る」のです。厚生労働省は2007 年に「メタボリックシンドロームを予防しよう」を発表し、運動、食事、禁煙、クスリの指示をしました。しかしそこに睡眠に関する記載はありません。さらに標準的な健診・保健指導プログラムを厚生労働省はまとめたのですが、ここにも睡眠の文言はありません。全体版では5箇所で「睡眠」の文言を見つけましたが、眠りを積極的に促そうとする姿勢はみてとれません。なぜか厚生労働省は国民を寝かせたくないようです。
この厚生労働省の方針に医師会も追随しています。2007 年6 月発行の日本医師会雑誌特別号『メタボリックシンドローム up to date』で眠りについての記載を探しました。149ページになってようやく肥満が睡眠時無呼吸症候群の悪化因子との記載が登場します。次は250ページ、矢島鉄也氏の厚生労働省の取り組みの図1の中に見つけました。不適切な生活習慣の一つとして睡眠不足が挙げられています。しかしこの図の保健指導には、「食事、運動、禁煙等」とあるのみで、「眠れ」という指導はありません。次は 295 ページ。細田洋司、寒川賢治両氏の論文の「おわりに」の項になってようやく「最近、不規則な睡眠や睡眠障害と、肥満もしくは体重減少との関係が注目されている。(中略)睡眠不足によって血中グレリン値の上昇とレプチン値の低下が認められる。」という記載を見つました。しかし 195 ページから 240 ページにいたる治療の項には「眠れ」という指導は登場しません。さらに2014年の日本医師会雑誌の特集『肥満症の診療update』でも肥満が睡眠時無呼吸症候群に関連することについては記載があるものの、「寝ないと太る」ことに関する記述は77ページに及ぶ特集中皆無でした。
医師会も国民に「寝ないと太る」を知らせたくないようです。国をあげて国民を寝かせないことで肥満減少を阻止し医療を含む各種業界に利益をもたらすというマッチポンプの役割を担おうとしているのではないかと勘ぐりたくもなります。すなわち、「夜間の過度の運動→交感神経の興奮→眠れない→太る→ダイエット食とサプリメントと一層熱の入ったジム通い→……」という悪循環です。
なお死因第1位の悪性新生物についても、夜間受光増加によるメラトニン分泌低下の影響や、国際がん研究機関の夜勤との関連の報告があることのですが、これらについての広報も決して十分ではないと感じます。ヒトは寝て食べて出して初めて心身の活動のパフォーマンスが高まる昼行性の動物、と私はいつも申し上げています。いかがお感じになりますか?
医師プロフィール
神山 潤(こうやま じゅん) 小児科
公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者)
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。