救急医のドロップアウトを減らす
記事
-ER型救急の現場で感じている課題どのようなことでしょうか?
多くの人の命を救いたいと救急医になったものの、さまざまな理由からドロップアウトしていってしまう人が多いことです。そもそも救急医の人数が少ないため、一人にかかる負担が大きかったり、身近にロールモデルがいないことが原因になっています。また、夜間救急の外来など、穏やかな患者さんばかりではなく、酔っ払いの患者さんがいたり暴力暴言の出る患者さんがいたりしてどうしても気が滅入ることがあります。そのような時にすぐに話を聞いてもらったり相談できたりする同世代の救急医がいない環境に置かれている人が多いからです。
救急と一括りに言っても、ERや集中治療、外傷外科医と分野はさまざまです。そのため、ERに特化するとかなり人数は限られてきます。私が救急医を始めた頃は、「仲間」というと本当に自分の病院にいるメンバーくらいでした。そのため情報交換や勉強が共にできて、辛い時に相談できる仲間がいて支え合える環境があったらと思っていました。
-そのために先生は、どのような行動を起こされたのですか?
私が福井大学付属病院に勉強に行かせてもらっている時に、現在アメリカのHarborview Medical Centerで活動している渡瀬剛人先生、東京ベイ浦安市川医療センターの志賀隆先生に出会いました。お二人の先生は「志を持って救急医として働いている人が孤独にならないように若手でネットワークをつくり、お互いに支え合いながらやっていきたい」と考えていました。それに私も強く共感し、EM Allianceという団体の立ち上げに協力しました。現在EM Allianceは設立から6年経ち、2015年4月からは代表を私が勤めています。
-具体的にどのような活動をしているのでしょうか?
ER医同士の知識の向上と、つながりを作ることを目的に活動しています。勉強面では年に2回勉強会を開いていることと、メーリングリストを介して情報交換を行っています。運営メンバーで教育グループ、研究グループ、なでしこグループという女性グループ等いくつかのグループに分かれて活動しています。メーリングリストを活用して、注目されている論文の共有や症例を流して、各自の勉強に役立ててもらっています。現在、メーリングリスト登録者は1800名を越えました。また、当初は後期研修医をメインターゲットとしていましたが、口コミで広がり今では医学生から、かなりベテランの先生まで参加してくださっています。
それ以外につながりを作るという面では、気軽に何でも話せるような懇親会も勉強会に合わせて定期的に開いています。メーリングリストや学会など、他にもつながりを持てるチャンスもありますが、そのような場であれば、よりプライベートなことも相談できますし、時には愚痴を言い合うこともできます。悩みをため込んでいくことがストレスとなり、ドロップアウトの可能性を高めてしまうので、救急医として働いている中で感じることを気兼ねなく話すことで発散し、「また自分の現場で頑張ろう」と気持ちを整理する場として活用してもらっています。
このネットワークによって、一人でも多くの救急医が救急医療を続けてくれることを願っています。
(聞き手 / 北森 悦)
医師プロフィール
佐藤 信宏 救急医
2005年新潟大学医学部卒業。新潟市民病院救急科に勤務。
新潟県立がんセンターにて初期研修、新潟市民病院の救命救急科で後期研修を行う。福井大学医学部付属病院、東京都立小児総合医療センターにてER型救急を学ぶ。現在は新潟大学大学院医歯学総合研究科にも所属。また、2015年4月よりER型救急医学を志す、または実践する者たちで構成する非営利団体EM Allianceの代表を務めている。