臓器別スペシャリスト集団の中で家庭医療を学ぶわけ
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◆患者さんのストーリーを聞くのが好き
―家庭医を志したきっかけから教えていただけますか?
横浜市立大学医学部に進学した時はいわゆる「町医者」のように、子どもから高齢者まで、来院した人に対して何でも対応できる医師になりたいと、漠然とイメージしていました。ところがいざ入学してみると、想像以上に臓器別に細分化されていることに衝撃を受けました。そんな中で何科に進もうかと考え、女性を総合的に診られる産婦人科に進むことを考えたり、小児を幅広く診られる小児科を選ぼうかと考えたりしていましたね。
転機が訪れたのは大学3年生の夏休み時でした。夏休み前に失恋をして、夏休みの予定が一切なくなってしまったり、日本にいたくないと考えたりして、イギリスに短期留学に行ったんです。そこでGeneral Practitioner(GP)の話を聞いて、「これはもしかしたら想像していた医師像に近いのではないか!?」と思ったのです。帰国後、プライマリ・ケア連合学会の「学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」に参加したり、関東の家庭医療に興味のある学生が集まる勉強会「学生・研修医部会」の代表を務めたりする中で、総合診療・家庭医療の面白さを知り、家庭医になろうと決めました。
―富田先生は、総合診療・家庭医療の面白さをどのような点に感じたのですか?
私は患者さんのストーリーを聞くのが好きで、他の診療科に比べてストーリー性が高い点に魅力を感じました。あとはイメージしていた医師像のように子どもから高齢者まで診ることができて、患者さんの病気だけではなく、その人が困っているから問題を解決したり、その人がどうやったら幸せになれるのかをさまざまな方向から考えられたりする点に面白さを感じました。
少し余談になりますが、そのような診療科があることをわたしは学生時代の途中に気づきましたが、医学教育の中で直接教わる機会はありませんでした。そこで、自分と同じように悩んでいる後輩が、少しでも早い時期に総合診療を知る機会を増やせたらと思って、母校で総合診療の授業を2コマ分させていただいています。母校の先生に「学生さんに総合診療を知ってもらいたいんです。授業をさせてもらえませんか」と突然メールを送り、3年前から始めて2019年度で3回目になります。
◆臓器別スペシャリストが中心の病院で家庭医療の研修をする理由
―富田先生は現在、聖路加国際病院の一般内科で病院総合医・家庭医研修プログラムを受けています。かなり珍しい選択だと思うのですが――。
そうですね。私が当プログラムの1期生で、今年やっと後輩が1人入りました。初期研修から聖路加国際病院にはお世話になっていて、後期研修先を決める段階で一般内科の先生に家庭医志望だと伝えたら、ちょうど総合診療のプログラムを作ろうと考えていたものの候補者がいなかったという話を伺い、私が候補者となってプログラムを作っていただきました。
当院は急性期病院で臓器別のスペシャリストがたくさん集まっている病院です。そのため、プライマリ・ケア連合学会の夏期セミナーに参加するような家庭医療への高い志を持っている学生は、ある意味初期研修先として選ばない病院です。しかし私は、家庭医療に専門的に進む前に、他科に認められるレベルの高い医学スキルを身に着けるのが先だと考え、まずは医学教育をしっかり受けられる当院で初期研修、後期研修を受けることに決めました。
というのも、学生時代から総合診療先駆者の先生方に勉強会をしていただいたり、周囲の総合診療に対する評価を耳にしたりする中で、他科にも認められる医学の確固たる基盤が絶対に必要だと思うようになったのです。
―家庭医療を軸にした研修施設もある中で、あえて臓器別スペシャリストが多数集まる聖路加国際病院を研修先として選ぶまでには、それなりに悩んだのではないでしょうか?
確かにそうですね。初期研修を終えて後期研修先を選ぶ際には、やはり家庭医療に振り切ったプログラムに行くべきか、スペシャリストが集まる聖路加国際病院で多少のアウェー感を感じながらも後期研修をするべきか悩みました。
―聖路加国際病院で後期研修プログラムを受けようと決意できたのはなぜですか?
初期研修2年間が終わった段階で、私はまだ、最大限の治療をしたときにどこまで良くなってどのような経過をたどり、予後がどのようになるのか分かっていない、もう少し知りたいと思ったのです。
家庭医療は「引き算」の治療が多いと思います。延命には必要かもしれない治療も、患者さんの思いに沿わなければやらなかったり、薬も減らしたり、過剰な医療をしないようにしていくのも大切な医療だと思っています。そんな家庭医療を提供していく医師として、最大限足し算していく治療のメリット・デメリットをしっかり理解した上で患者さんに情報提供し、患者さんの希望に沿った医療をしていきたいと考えていましたが、初期研修が終わった時点では、「足し算」の治療のメリット・デメリットをまだうまく説明できないと思ったのです。そこで、もう少し急性期病院で研鑽を積もうと考えました。また、自分で1からプログラムを作れることも非常に魅力でしたし、聖路加国際病院で総合診療医を育てることができるというのは社会的に大きなインパクトがあると思いました。
医師プロフィール
富田 詩織 家庭医療専攻医
神奈川県出身、2015年横浜市立大学医学部卒業。同年4月より聖路加国際病院にて初期研修、2017年からは同病院一般内科に新設された病院総合医・家庭医研修プログラム専攻医として研鑽中。2019年に聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科 修士課程修了。