低FODMAP食とおなかの関係
記事
「乳酸菌飲料を飲むと、むしろお腹が緩くなる」という友人がいます。
最近の腸内細菌の研究ブームで、ヨーグルトや発酵食品などに注目が集まっています。これらで便秘などの腹部症状が改善した方はいらっしゃると思います。しかし、自分のおなかに効いたからといって、万人に通用するわけではありません。十人十色というように、それぞれの腸のタイプによって適応は変わってきます。
欧米では、食と消化管について、科学的な解明が進められています。最も有名なのが、「FODMAP」です。これらの摂取が多いと過敏性腸症候群(IBS)が悪化しやすいとされています。
<FODMAP とは?>
「短鎖炭水化物」という腸で発酵しやすい、オリゴ糖、2糖類、単糖類、ポリオールを指します。(fermentable oligosaccharides, disaccharides, monosaccharides, and polyols の略)これらは、小腸通過時に腸内細菌により分解され、水素ガスなどを発生します。これらは腸管から吸収されにくいため、腸管の浸透圧を上げ、腸の中に水を引き寄せる作用を有します。下の写真上段が「高FODMAP」で気をつけたほうが良い食品例、下段が「低FODMAP」でIBSにおすすめの食品例です。
<高FODMAP >
リンゴ、スイカ、ドライフルーツ、アスパラガス、ブロッコリー、マッシュルーム、小麦、パスタ、クッキー、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ(soft)、ソルビトール、マンニトール、ハチミツ、コーンシロップ、枝豆、大豆など
<低FODMAP >
バナナ、ブルーベリー、レモン、グレープフルーツ、人参、セロリ、じゃがいも、かぼちゃ、グルテン抜きパン、米、オーツ麦、ラクトース抜き牛乳・ヨーグルト、豆腐、砂糖など
(http://picketfencepaleo.com/fodmaps-nightshades-and-dairy-oh-my/ より)
食事の研究は、ランダム化や被験者に気づかれない盲検化が難しく、客観的研究が困難とされてきました。その壁を打破するがごとく、シェフたちも参加し、さらに健常者も含めた大規模研究がオーストラリア・ニュージーランドで行われ、由緒あるGastroenterology誌に掲載されました。
低FODMAP食はIBSの症状を改善する
A Diet Low in FODMAPs Reduces Symptoms of Irritable Bowel Syndrome
Gastroenterology 2014;146:67-75
被験者
・30名のIBSと8名の健常者
・それぞれランダムに低FODMAP食群と一般的オーストラリア食群に分けた
方法
・7日間 通常食での内容と腹部症状を記録
・21日間 1日3食ずつ食事提供(冷凍配食、新鮮食は指示で適宜購入)
→症状記録、最後の7日間は便の性状、水分量を検査
結果
・IBSの下痢型、便秘型共に、低FODMAP群で腹痛、膨満感など腹部症状改善
・健常者ではFODMAPによる、腹部症状の差なし
・便性状は下痢型IBSで改善
「制限食」? 物足りなさを感じない食事内容
「〜を食べてはいけない」と言われると無性に食べたくなり、ストレスがたまった経験はないでしょうか。今回の研究は、FODMAP成分を毎食0.5g以下にするとの設定。低FODMAP群の人の多く(IBS 17%、健常群 71%)は、自身の食事が制限食群と気づかなったそうです。そのさり気なさ、いいですね。論文に食事の一例が写真で掲載されていました。版権の関係上、ごく類似の写真を掲載します。これらが冷凍で送られてくるなら、続けられそうです。
「低FODMAP食」の献立やいかに?
論文に掲載されていた、実際の献立の一部をご紹介します。明日からの食事に応用できそうですね。
例:月曜日
朝食 コーンフレーク、ラクトース抜き牛乳、スペルト小麦、オレンジジュース
昼食 野菜フリッター、ハーブ水
間食 マフィン
夕食 サーモンと野菜、雑穀添え
腸内細菌や腸管神経との関係
今回は腸内細菌のゲノム検査はしていません。下痢型のみ水分量変化があり、これらFODMAP成分が影響していることが考えられます。 低FODMAP食により、腸管粘膜の微小炎症が改善したとの報告や、食事による腸内細菌叢変化なども、他に研究論文が多数出ており、まだまだ研究が必要な分野です。また、便秘型IBSの腹痛、腹部膨満感も改善しており、便性状と感覚をつかさどる関係が別ルートなのか、これも今後解明が期待されます。
日常に応用するにあたり
糖質を使って発酵を促す発酵食品などは、食べ過ぎるとおなかのガスが増えることもあります。また、腸内細菌など消化管機能効果をうたう食品には、様々な「糖分」が含まれています。それらがおなかに悪さをしてしまう可能性も考えられます。日本の栄養士の専門家にも、これらのFODMAP情報が広がっていくと良いですね。
IBSについては、「食」のみが原因ではないと言われています。著者らも述べていますが、FODMAPの量を「0」にするのでなく、あくまで「控える(0.5g以下にする)」ことを勧めています。低FODMAP食を厳しく適応しすぎると、栄養バランスが片寄り、体に影響が出ることもありますので、ご注意ください。
医師プロフィール
田中 由佳里 消化器内科
2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。
【おなかハッカー】