「飲み会の後、よくおなか下すんだよね」
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春になり、歓送迎会の季節となりました。「飲み会のあと、おなかを下す」という話を聞いて、「自分もだ!」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
過敏性腸症候群(IBS)の患者さんでも、「お酒で便秘がひどくなる」という方より「おなかを下す」と言われる方が圧倒的に多い印象です。日本人はアルコールに弱いから?ではなく、外国でも似た現象が起こっているようです。
Am J Gastroenterol 2013;108:270-276
対象:18-49歳の女性IBS患者166名と健常者48名
方法:1ヶ月間の飲酒量とお腹の症状を記録。
カフェインとタバコについても記録。
結果
・IBSと健常者では一ヶ月の飲酒量は変わらず
・IBSのみ大量飲酒翌日の消化管症状が悪化
・たしなむ程度の量なら消化器症状と関連なし
・下痢型IBSの人が最も飲酒と症状の関連あり
・カフェインは症状に影響を認めず
「大量」の酒ってどれくらい
この論文では、ワイングラス、缶ビール1本、リキュールショットグラスをそれぞれ1杯としています。(ワイン→4オンス、ビール→8オンス、リキュール→1ショットと記載)1日にこれらを合計4杯以上飲んだ時を「大量」としています。普通にアルコールを飲める方なら、通常の飲み会での飲酒量に近いのではないでしょうか。
「お腹あるある」は本当だった
メカニズムは完全に解明されていませんが、アルコールを飲むと、胃や腸の動きが鈍くなることがいわれています。また腸での水分や炭水化物・タンパク質吸収が悪くなり、便が柔らかくなる原因になります。これらが合わさり、翌日の下痢症状を起こすのではと著者たちも述べています。ちなみに、慢性的なアルコール飲酒は栄養吸収も悪くなり、そして腸内細菌も変わり悪循環になることがいわれています。
お酒は美味しく、適量で?
今回1日に3杯以下なら大きく影響しないのではというこの論文。しかし、日本人は欧米人ほど体格も大きくなく、アルコールに弱い遺伝子を持つ人も多い人種です。もっと少量でも、症状が出やすい方はいらっしゃるかもしれません。ちなみに、タバコもIBSの症状に影響をおよぼすことが報告されています。
余談ですが、欧米人にアルコールに強い人が多い理由として、面白い説があります。中世にペストなどが流行して、普段の飲料水として自家製ビール等のお酒を飲んでいたそうで、お酒に強い遺伝的素因を持っていた人は、肝臓などを壊さず生き延びることができたとの話。先祖代々の生活環境の影響と遺伝の関係、近年研究が進んでいる分野です。
花見酒、とっても楽しいですが、まだまだ寒い時期。寒さとアルコールの飲み過ぎでおなかを酷使しないよう、心も体も暖かく。と言いつつ、せっかくの機会、楽しんでください!
医師プロフィール
田中 由佳里 消化器内科
2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。
【おなかハッカー】