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INTERVIEW

ワシントン大学 ハーバービュー・メディカルセンター

救急科

渡瀬 剛人

母国、日本でER型救急を普及させるために

米国の救急医療は40年程前に一つの部門として独立し、事実の是非はさておき、しばしば「日本より進んでいる」と言われます。しかし、そんな中にも課題は数多く山積し、そのうちの一つが、救急外来が混雑し受診に長時間待たされること。この課題について取り組む日本人医師・渡瀬 剛人先生は、診察手順の改革によって脳梗塞患者において来院からCT検査までの時間を平均30分から7分にまで減らすことに成功しました。具体的にどのような改革をしたのか、将来は救急医療のどのようなことに取り組みたいのか、お話していただきました。

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米国救急外来の時間短縮・効率化を担う

-米国の救急医療には、どういった課題がありますか?

全国的な問題として、米国の救急外来受診時の滞在時間の長さがあります。米国では、文献によってばらつきがあるものの、救急外来を受診して自宅に帰れる患者さんは、平均して4時間ほど、入院となる患者さんは平均6時間も診療にかかっています。

なぜこんなにも長時間かかるか?

米国はプライバシーの観点や患者さんの負担減の観点から、昔から全ての患者さんを個室で診ていました。どんなに検査に時間がかかっても、その患者さんの診察が完了しない限り、次の患者さんをその部屋には入れられないという仕組みです。入院が必要な救急外来の患者さんが、病院が満床であるために24時間も救急外来でベッドを待つこともあります。俗に言う、「ボーディング」ですね。研究によってボーディングと院内死亡率に相関関係があると証明もされています。

また、一人の患者さんの滞在時間が延びれば延びるほど待合室の混雑が助長されるという悪循環が生まれています。私の勤務する病院は、受け入れ拒否はタブーなので、どんな混雑時でも必ず患者さんは受け入れています。あまりにも時間がかかるので、検査の途中でしびれを切らし帰ってしまうという患者さんもいれば、待合室から診察前に帰ってしまう患者さんもいます。もし、帰ってしまった患者さんの検査結果の緊急度が高かった場合、その扱いに難渋します。また、あるデータによると、患者満足度は救急外来の滞在時間が3時間を越えると大幅に落ちます。

このように、滞在時間が長いことは、患者さんの診療の質・リスク・満足度など、さまざまな観点から多くの問題を抱えているのです。そのため、救急における時間のマネジメントが課題となっていたのです。

-渡瀬先生は、そのような課題に対して、どのような取り組みをされているのですか?

2012年からワシントン大学のハーバービュー・メディカルセンターの救急科に所属していて、ERの質管理、効率化のためのシステム改革に関わっています。

どんなに混雑していても迅速に対応しないといけない疾患がいくつかあります。例えば、脳梗塞疑いの患者さん。いかに早く脳梗塞と診断して、血栓溶解をするかがその患者さんの予後に大きく関わってきます。

そこで、神経内科・放射線科・放射線技師・事務・薬剤部を巻き込んで混雑に影響されないプロトコールを作成・主導するのが自分の仕事です。この際に、フェローシップでオレゴン健康科学大学(OHSU)の救急医療マネジメントを学んだことが多いに役に立ちましたね。私利私欲が絡む多くのグループをいかにお膳立てしながら上手くまとめるか、なかなかチャレンジングですが、やりがいはあります。

おかげで、脳梗塞患者さんの受診してからCT検査まで平均30分かかっていたのを、7分にまで短縮することができました。他には、安定してる透析患者さんを入院させずに透析センターに送ったり、敗血症患者さんをバイタル・検査結果をスキャンする電子カルテでいかに素早く見つけるかなどを行ってきました。今は、心筋梗塞の患者さんをカテ室に直行させるプロトコールを作成しています。

また、このようなことは他科を巻き込んで救急科が主導で行っているので、上手くいかなかったときに、どこで問題が生じたのかを分析し、他科とのカンファレンスで議論・改善する役割を担っています。

―システム改革の具体的な方法は、どういったものですか?

数年前から米国では、トヨタ生産方式(TPS)を医療現場に利用する流れが出てきています。無駄を省き、繰り返し改善して医療の質を高めているのです。当院では、MRIに時間がかかることが課題でしたので、患者さんがMRIをオーダーされてから検査を受け、その読影結果が返ってくるまでの一連の流れをValue Stream Mapにて表し、無駄の部分を指摘・排除し、効率化を図っています。

同じく無駄を省くという意味で、自分で歩ける程度に元気な患者さんに救急外来のベッドをまるまる一つあてがうことを考え直し、診察時のみベッドを利用してもらうことで、ベッドの回転率を上げることも考えています(Split Patient Flow: Keeping vertical patients vertical)。

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PROFILE

渡瀬 剛人

ワシントン大学 ハーバービュー・メディカルセンター

渡瀬 剛人

ワシントン大学救急医学領域 ハーバービュー・メディカルセンター Attending Physician
2003年名古屋大医学部卒業。愛知県厚生連海南病院にて初期研修。その後、名古屋掖済会病院のER救急に2年間勤務し、渡米。2007年にオレゴン健康科学大学(Oregon Health and Science University /OHSU)の救急レジデント、フェローシップを修了、MBA取得。2012年より現職。

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