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INTERVIEW

オレンジホームケアクリニック

家庭医

紅谷 浩之

「ハッピードミノ」を倒すお手伝いをする

在宅医療に移行した患者さんの生き生きとした様子を入院先の病院にレポートするプロジェクトや、重度の障がいがあっても夏は避暑地に旅行できるプロジェクトなど、5年間でいくつものプロジェクトが立ち上がっているクリニックがあります。福井市の紅谷浩之先生が立ち上げたオレンジホームケアクリニックです。柔軟な発想から次々とプロジェクトが始動する環境づくりの秘訣はどのようなことなのでしょうか?そして、そのような環境をつくり出せている紅谷先生の信念とは―?

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事務職でも治療方針決定に関わるクリニック

―さまざまなプロジェクトを立ち上げている紅谷先生。スタッフからも多くのアイデアが出ていることがクリニックの特徴の1つだと思いますが、どのようにしてそのような環境をつくれたのですか?

クリニックの院長だからといって医師が偉いわけではありません。確かに医師は医学分野における知識はあるかもしれませんが、医師以外の人でないとできない部分も全て揃っていないと、患者さんや地域の人たちをハッピーにはできません。ですから私たちのクリニックではオープン時から意識的に非医療者を採用したり、「医師が言ったことを聞く」というルール自体がなかったりします。

このような環境の中でプロジェクトは、誰が発案者かということは問題ではなく、「それいいね!」という声が集まると動き始めます。私も共感を得られないと何もできないんです。5年前から「ラジオ局を作ろう」と言っているのですが、今のところ誰も共感してくれないので、動いていません(笑)。

医療方針の決定に関しても同様です。例えば痛み止めの量を増やすかどうかを決める際、私や看護師は「確かに寝ている時間が多くなるかもしれないけど、やっぱり痛みは取れるから楽になるよね」と話していたら、事務スタッフの一人が「でも、せっかくお孫さんに会いたくて自宅に帰ったのに、薬で眠くてお孫さんに会えなかったらどう思われるでしょう?ちょっとくらい痛くても、起きていたいという気持ちもあるんじゃないんですか?」との意見を言ってくれ、ハッとさせられたこともあります。

このように何でもフラットに発言できる関係性ができていることが、さまざまなプロジェクトが立ち上がるポイントだと思っています。

―具体的には、スタッフの方から出たアイデアでプロジェクトとして動いているものは何でしょうか?

病院から在宅医療に移行した患者さんの様子を病院スタッフにも伝えたいというアイデアから、「オレンジらしい」という在宅療養移行報告として病院に紹介するプロジェクトが始まりました。スタッフが患者さんに取材して写真入りのA4一枚のレポートにまとめ、これまでに30件ほど報告してきました。

病院スタッフも自宅に帰った患者さんの様子は気になっているので、フィードバックによって生き生きと暮らしていることを知ることができ、とても喜んでくれます。また病院ではなかなか生活目線が持てませんが、このように報告していくことで病院スタッフが、病状だけに注目していると退院できないと思われる患者さんでも、「この人も帰れるんじゃないか」と退院の可能性を探ってくれるように変化してきていると思います。

実際に医師から「これ以上病院でできる治療はもう見当たらなくなってしまったので、奥さんと思い出の公園を散歩したいという気持ちをかなえていただけませんか?」と、紹介状をいただいたこともあります。私たちの在宅診療では「こんなこともできます」というのが伝わった結果だと思います。

写真1

 

反対に在宅医療で診ていた患者さんが入院になった際も、その方の自宅での生活の様子を病院スタッフに知ってもらい、患者さんにとってハッピーな生活環境を整える努力も始めました。その患者さんに関わったクリニックの看護師が何度か入院先の病院に行き、どんな思いを持ってその方がこれまで生活してきたかを伝えています。

例えば「いつか転ぶよ」と言われながらも一人で暮らしてきた80歳の女性が、転んで骨折し入院したことがありました。病院スタッフはどうしても病状に焦点を当てる必要があるので「一人暮らしだから、退院後は施設を探しましょう」となってしまいます。

しかし在宅医療で診ていた私たちは、彼女は寝たきりで動けなくなっても家で暮らしたいことを知っていて、それができると思っていました。ですから、どんな思いで一人暮らしをしてきたのか、庭の手入れなど彼女が自宅で大事にしていることがあるからこそ生き生きと暮らせること、私たちがサポートできることを伝えています。入院後も私たちが積極的に関わることで、患者さんがハッピーな選択をできるようにすることが重要だと考えています。

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PROFILE

紅谷 浩之

オレンジホームケアクリニック

紅谷 浩之

オレンジホームケアクリニック院長
2001年、出身地・福井市で「町医者」になるべく福井医科大学(現・福井大学)医学部を卒業。同大学附属病院に新設された救急総合診療部にてER型救急のトレーニング、福井県名田庄村(現・おおい町)や高浜町の診療所を経て福井市に戻る。市内には医療資源が豊富にもかかわらず在宅医療だけスポットが当たっていないことに違和感を覚え、勤務医として在宅診療クリニックの立ち上げに携わり、2011年にオレンジホームケアクリニックを開設した。
2012年に医療ケアが必要な子どもとその家族をサポートするチーム「オレンジキッズケアラボ」、2013年には福井駅前に「みんなの保健室」、2015年には軽井沢に期間限定の滞在スペース「軽井沢オレンジキッズケアラボ」、2016年には外来診療を立ち上げるなど、数多くのプロジェクトを実践している。

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