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INTERVIEW

医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック平和台

内科

林 伸宇

多角度の活動で人の最期をより良くする

糖尿病内科から在宅医療へキャリアチェンジした林 伸宇先生。2015年7月には30代前半という若さで「祐ホームクリニック 平和台」の院長に抜擢。また、2008年からは「こころっコロ」という非営利団体を立ち上げ、小学校などを中心にさまざまな世代の人に命と向き合う機会を提供しています。両方の活動を行うに至った経緯、そしてその活動にかける想いを伺いました。

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在宅医療と、命と向き合うワークショップ

―現在取り組んでいることを教えてください。

2015年に立ち上げた練馬区にある「祐ホームクリニック 平和台」という在宅医療のクリニックの院長をしています。当クリニックの運営元である医療法人社団鉄祐会の理事長 武藤真祐先生に「院長をやってみないか」と声をかけてもらったのがきっかけです。

現在、祐ホームクリニック 平和台では常勤医師2名と非常勤医師9名で、約300名の患者を診ています。また年間50名ほどのお看取りにも関わっています。練馬区には緩和ケア病棟がないので、末期がんの患者さんも訪問し緩和ケアをしています。隣接する区の方もいますが、ほとんどが練馬区在住の方です。

また、在宅医療とは別に2008年、「こころっコロ」という非営利団体を立ち上げ、活動しています。この団体では、さまざまな世代の人たちが命と向き合う機会が持てるように、ワークショップや授業、講演などを通じて、命に関わる決断や、働き方や生き方など、世代に合わせてテーマを変えて、伝えています。

活動は小学生向けに行うときもあれば、東京大学で特別講義として担当させてもらうことも。他にも不定期ですが医学生向けや看護学生向け、市民向けにも開催することがあります。同じ内容の講座も含めると、1年間で10〜20回開催していますね。

スタッフは、医師や看護師などの医療者以外にも多種多様な職業やバックボーンを持つ人々で構成されています。コアメンバーは約10名。少し関わった人も含めると全員で50名ほど。基本的にはみんなボランティアで、無理のない範囲で参加してもらっています。

―それぞれの活動では、どんなところに課題を感じていますか?

在宅医療の中で特に問題だと思っているのは、「こんなにいい医療があったなんて、もっと早く知りたかった」と言われることが多いこと。つまり、在宅医療なら助けられる人がたくさんいるのに、その患者たちが在宅医療を知らないということです。

本当に在宅医療を必要とされている人の中には、普段テレビも新聞も見ない、インターネットも使わない、区報も見ない、ご近所付き合いもあまりないという人たちもいます。そういう状況だからこそ、医療が本当に必要になったときに困ってしまうわけです。これは、医師だけが頑張っても解決できるものではなく、医療従事者やそれ以外の人たちも協力して行わなければいけないと考えています。

クリニックとしては、医療者向けだけでなく一般の方向けに、他の病院と連携したり、あるいは行政と協力して、啓発活動に力を入れることで、少しでも多くの人に在宅医療を知ってもらえるよう活動しています。講演会開催の情報が区報に掲載されると、100名近い方が集まるときもありますね。

こころっコロの活動では、当初、さまざまな学校に活動できるよう依頼していましたが、反応は芳しくありませんでした。自治体や学校のホームページには、子どもへの命に関する講演活動を推奨していると書かれていても、いざ行ってみると「そういう生死の話をされては困る」「生徒がどういう反応をするかわからないのに、君たちは責任取れるの?」と断られてしまったのです。子どもが、命や生死に関わることを身近な問題として捉えにくい――。このような社会では「最期の時間を、もう少しいい時間にする」ために、医療・介護者以外の方も巻き込んで考え行動していくのがとても難しいと感じました。

幸い、人づてで紹介してもらった世田谷区の塚戸小学校の校長先生が、「どんな風になるか不安だけど、まずは1回やってみて。責任はうちで取るから」と言ってくださいました。それが結構好評で、塚戸小学校での活動を重ねるごとに、少しずつ他のところからの依頼も来るようになりました。

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PROFILE

林 伸宇

医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック平和台

林 伸宇

医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック平和台院長
2007年、千葉大学医学部卒業。2013年、東京大学大学院公共健康医学専攻修了。東大病院、日赤医療センター、大森赤十字病院、医療法人社団鉄祐会などでの勤務を経て、2015年7月に同法人祐ホームクリニック平和台の院長に就任。2012年よりJMA-JDNの活動に参加。

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