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高齢出産が増える今、自然治療を使って妊娠力を上げたい

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初産平均年齢32.2歳。ライフスタイルの多様化で出産年齢が高くなるにつれ、不妊治療を受ける方の年齢も高くなっています。約25年前から不妊治療専門クリニックを開業されている原利夫先生は、患者さんの変化に伴い自然治療も取り入れて、ニーズに応えようとしています。

―今、挑戦していることは何ですか?

生殖医療は学会の規制があり、着床前診断などアメリカをはじめ海外でできることが日本ではできない。そこは今、学会で論議検討されていますが、私は一開業医ができることとして、先進医療も併用した自然療法に取り組んでいます。生殖医療の領域では、高齢な患者さんが増えていますから、先進治療と共に自然療法といわれるできるだけ薬を使わない漢方や食事、運動などでも妊娠力をあげることが大切だと考えています。

開業した25年前は、患者さんの平均年齢が20代後半~30代前半だったのが、今は平均年齢が38歳を超えていますから、妊娠自体が難しくなってきている。だから、体外受精や先進医療だけに頼らないで自然の力で妊娠力を上げようと思っています。クリニックでは今まで、食事や普段の生活習慣を診ることに取り組んでいました。最近ではさらに、精神的なストレスが排卵を抑制することが分かってきたため、「マインドフルネス」といって脳のストレスを取る方法も取り入れています。呼吸法や瞑想、ヨガを導入することで、なかなか結果の出ない不妊治療のストレスや、不妊に対しての不安で身動きが取れなくなっている心を開放できます。

患者さんは高齢化が進み、クリニックに来る患者さんの半分は「妊娠しないんじゃないか」と諦めています。そのときに、納得いく治療をすることが大切です。「通院して色々頑張りました」だけではなく、患者さんにも参加していただく治療です。

患者さんにも何か自分でできることがあります。自分で努力しようとする方々をサポートしたいと思って取り組んでいます。

―そもそも、不妊治療に携わることになったきっかけは何ですか?

私は無宗教ですが、カトリック系の高校である産婦人科の教授から「お前は中絶をしないだろう、だったら赤ちゃんをつくる方に行け」と、不妊治療を勧められたことです。常に、周りからのいい影響で自分の方向性が決まるのを感じます。

―開業をしようと思ったきっかけは何ですか?

私が大学病院にいた25年前(卒後10年目)は、色んな意味で大学病院が進んでいると思っていました。開業を考えるようになった背景には、人生の分岐点になることが2つありました。1つは、他院から大学病院に出産後の緑膿菌感染症の患者さんが送られてきたこと。当時は電解質検査もなく、他科の医師たちからは「助からない」と言われたんですが、自分で治療して患者さんは助かりました。そのことがあって、自分としては技量的に一人前になったという手応えがありました。

もう1つは大学で不妊治療が進んできた時に倫理委員ができ、進めづらくなってきたことです。「もっと自由にやらせてくれればできる」という自信があり、意気揚々と36歳で開業しました。

ところが、半年間は全く患者が来ない。その時に技術ではなく、人間的な未熟さに気付きました。そこから夜間にクリニックを開けるなど、方向性を変えて自分の認識も変わりました。

―これからの若手へのメッセージをお願いします。

まずは一人前の医師になることです。技術的に自立できる自信を持つことが最低条件で、そこからは、いかに患者さんの気持ちを組んで治療を考えることができるかが重要です。

そのためには、出来るだけ多くの患者さんと接して、患者のためにできることを考えるのが一番です。不妊治療を受ける患者さんの5%はうつ傾向があると思っています。診断が付いていないことが多いのですが、隠れて向精神薬を飲んでいることもあります。そのような患者さんの気持ちを、どのように持ち上げてあげるか、それも不妊治療の一部です。対人間として接することができないと、患者さんの状況を組み取ることができません。

そしてクリニックがデパート化してお金を取るだけではいけません。時には、治療に関係ない話を20分聞くことも必要です。実際に自分は開業して、大学病院で「先生」と呼ばれていた頃には分からなかったことがよく分かるようになりました。

開業当初に収入がなく借金もあり、ストレスが多かったため、人間的に成長できたのがよかった。患者さんを治療の対象としてだけでなく、社会で働いて給料をもらい生活している人間として捉えることができるので、気持ちも理解できます。そして、今後この領域を目指す若手医師が多いのであれば、技術だけに捉われないで、生殖医療の倫理的な議論や、人間的に患者に寄り添う面も大事にしてほしいと思っています。

不妊治療を受けている患者の6割には病名がない

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医師プロフィール

原 利夫 産婦人科

はらメディカルクリニック院長  
医学博士。1983年慶応義塾大学大学院医学研究科修了にて医学博士学位を取得する。同大産婦人科助手を経て、1987年東京歯科大学市川病院講師、1989年千葉衛生短大非常勤講師となる。この間、日本初の体外受精凍結受精卵ベビー誕生のスタッフとしても活躍する。1993年、不妊治療専門クリニックはらメディカルクリニックを開設。専門は生殖生理学、内分泌学、精子学

原 利夫
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