coFFee doctors – 記事記事

日本の家族を診る力のレベルを上げたい

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1
  • 2

記事

医師6年目の宮本侑達先生は、周囲の声に悩みつつも初期研修後には家庭医の道を選択しました。中でも、患者さんとの出会いをきっかけに「家族療法」に注力するようになりました。その背景にある課題感とは――?

◆家族療法に力を注ぐ

―現在、最も注力しているのは、どのようなことですか?

 家庭医療の中核要素の1つに家族志向アプローチというのがあります。私はさらにその大元となった心理療法の1つである、家族療法に力を入れて学んでいます。そのエッセンスを日々の診療で積極的に取り入れる他、家庭医療夏季セミナーや冬期セミナーでワークショップを開いたり、国外で家族療法を専門的に学ばれた心療内科の先生や、亀田ファミリークリニック館山の有志と一緒に、オンラインで定期的なカンファレンスを行い、スキルを高めています。

―なぜ、家族療法に興味を持ったのですか?

専攻医2年目の時、ある患者さんの母親との出会いがありました。彼女は、高校生の息子さんのことで相談に来ました。しかし、その後も母親しか来ないのです。その母親と関わる中で、個人にアプローチするだけでは限界を感じるようになりました。解決の糸口として、プライマリ・ケア領域における家族志向ケアだけでなく、根本にある家族療法に関心を持ち、勉強するようになりました。家族療法を意識的に学んで臨床現場で実践してみると、当時、他にもなかなか治療が進まなかった患者さんの治療が急激に進んで、さらに興味を持つようになったのです。

病院に通院中の患者さんのうち約30%、診療所に通院中の患者さんのうち約45%が何らかの自覚する家族問題を有しているといわれています。さらに、医師が診たくないと思うような困難な患者さんは、大抵の場合、家族や身の回りの人間関係がもつれトラブルになっていることが多いと実感しています。そのような患者さんの場合は、家族単位で診ていくことが診療を進める大きな力になります。家族との関係性をしっかりと評価し、本人や家族が変化していくことをサポートする。そうすることで、診療の幅が広がることを身をもって実感したのです。

家族療法を学びながら、様々な精神科・心療内科・心理療法士と関わるうちにある課題が浮かび上がってきました。日本では、生物学的治療はもちろん、心理療法も個人療法が主で、家族単位で問題を捉えるのは、一部の精神科・児童精神科・心理療法士だということです。その点、家庭医は家族単位で問題を捉える訓練を受けています。しかし、家庭医の中でも扱える家族の問題のレベルは1人ひとりばらつきがあります。そのため、少し複雑な家族でも診られる家庭医をはじめ、医療従事者を増やしていくことをライフワークにしたいと思うようになりました。

◆周囲の声に悩んだが、自分の進みたい道に進む

―ところで、なぜ家庭医の道に進んだのですか?

もともと父が歯科医師でその姿に憧れ、医療職に就きたいと考えていました。医学部に進学したのは、両親から歯だけではなく全身が診れる方が良い、と助言されたからです。父が医師を目指す最初のきっかけだったので、私の中の医師像は、何でも診られる「町医者」でした。ところが大学での実習では、どの診療科に行っても「まずは専門を持った方がいい」と言われることが多く――。確かに10年間特定の診療科で専門性を磨いてから診療所での勤務を始めても良いかもしれません。しかし、正直その10年は長いと思っていまい、「自分は医師は向いていないのかもしれない」とさえ考えるようになりました。そして5年生に進学する際、留年したのです。

そしてもう一度病院実習をしていた時に、家庭医を知ったんです。調べれば調べるほど自分の志向に合っていますし、地元の千葉県に家庭医療研修で有名な亀田ファミリークリニック館山があることも知り、家庭医になることを決意。初期研修から亀田総合病院に行くことを決めました。

―悩んだ末に家庭医というキャリアを見つけた宮本先生。医学部を卒業してからは、あまりキャリアパスに悩むことはありませんでしたか?

いえ、初期研修2年目でも悩みましたね。家庭医療を学ぶために亀田総合病院で初期研修を受けていましたが、やはりそこでも「急性期を学んだ方がいいのではないか」「病院あってこその診療所だよ」などと言われることがありました。実際に初期研修2年目の初めの頃、急変のときに対応できる自信も持てなかったので、家庭医として診療所で働く前に、もうワンクッション挟んだ方がいいのかもしれないと思いました。

しかし、ある先輩から「まず自分がやりたいことをやって、その上で足りないと思ったスキルを補充していったらいいのでは」と言われたんです。その言葉に素直に納得ができたので、3年目から家庭医療の道に進むことを決めました。

鉄は熱いうちに打てと言われますが、医師としての土台が作られるのは、数年目までの若いうちだと思います。その時期に、まずは自分の進みたい分野で知識や技術、考え方を吸収し、医師としての土台を作る。周囲にさまざまなことを言われることがあると思いますが、それが医師として長いキャリアを歩んでいく上で一番良いのではないかと思います。

  • 1
  • 2

医師プロフィール

宮本 侑達 家庭医療専攻医

千葉県出身。2014年昭和大学医学部を卒業後、亀田総合病院にて初期研修修了。2016年より亀田ファミリークリニック館山にて家庭医療後期研修を経て、現在同プログラム指導医養成フェローシッププログラムで研修中。

宮本 侑達
↑