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震災から学んだ、地域医療に必要なこと

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東北に診断推論を学べる拠点として「東北GIM」を立ち上げた家庭医の遠藤貴士先生は、現在モミの木クリニックで地域に根ざした医療の実現のため尽力しています。そんな遠藤先生は震災後石巻市での医療支援活動の経験から、ある課題感を抱きます。その課題感とは――?お話を伺いました。

◆診断推論からマネージメントまで学べる場所

―2016年の東北GIM立ち上げの経緯について教えてください。

立ち上げのきっかけは、当時東北地方には診断推論を学べる場所がほとんどなかったためです。坂総合病院の佐々木隆徳先生、当時同院の初期研修医だった宮地康僚先生と協力して立ち上げました。現在、GIMは日本各地にありますが、中でも東北GIMでは診断推論だけではなくそこからマネージメントの段階まで考えます。普通は、稀な疾患や、診断に難渋した事例を共有する場が多いですが、私たちはそれに加えて地方の医療過疎地域のような限られた医療資源しかない場合にどのように対応するか、なども含めて話し合っています。これは震災を経験した東北ならではだと思います。

―現在のモミの木クリニックでの活動内容を教えてください。

当クリニックでは、院長の福井謙先生と共に地域で他職種の方々と勉強会や見学会などを行っています。当クリニックのある福島県郡山市では、まだ、急性期病院から自宅に戻るまでの移行がスムーズでないことが多いという課題があります。そのため、スムーズに移行するためにはどうしたらよいかを話し合う勉強会を福井先生が中心となって他職種の方々と行っています。また、その会では急性期病院の連携室スタッフや退院支援ナースなどに在宅の現場を知ってもらうため、見学会も開催しています。加えて、当クリニックでは地域の方が何でも相談できる、地域のコミュニティのような場所になるよう、スタッフと協力して環境づくりにも取り組んでいます。

◆被災地から学んだこと

―ところで、なぜ医師を目指されたのですか?

もともとは、医師ではなく教師を目指すため東京学芸大学に通っていました。人と関わる仕事がしたいと思い、教師か医師のどちらかで迷いながらも当初は医学部には進みませんでした。しかし、卒業間近になって、周りが就職をしていく中自分は本当にこのままでいいのか――?と思うようになったのです。教えることなら医師でもできるのではないか、と。そして大学卒業後、改めて医学部を受験することを決意しました。

医学生時代、所属していた農村医学研究会を活動がきっかけに、自分は地域医療が合っているのではないかと思うようになりました。また、私が福島県郡山市の中でもさらに田舎の方で育ったことから、幼い頃から抱いていた理想の医師像は「町医者」でした。

―初期研修は横須賀市立うわまち病院で受けたそうですね。その頃から家庭医を意識されていたのですか?

そうですね。具体的には地域医療研修でお世話になった久瀬診療所(岐阜県)での経験がきっかけです。診療所では、小児から高齢者まで内科だけでなく整形外科的な問題、精神科的な問題にまで幅広く対応します。また、教育面では学生や研修医でも責任ある仕事を任せたり、医師だけでなく看護師や介護スタッフも先生だと考え、若手への教育をさせたり。いい意味でごちゃまぜだったのです。そんな診療所の雰囲気が自分にしっくりきて、家庭医を目指しました。久瀬診療所での経験は、家庭医としての基本的な立ち居振る舞いを学んだ場所です。

―初期研修後は、諏訪中央病院へ。2011年には石巻市へ医療支援にも行かれたそうですね。

初期研修後は、もう少し診断学を学びたいと思っていたのですぐに診療所に行くことには不安がありました。そのため、後期研修は毎日臨床推論のカンファレンスを行っている諏訪中央病院へ行くことにしました。

そんな中、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實先生が立ち上げたNPO法人が、東日本大震災の後復興支援に行っていて、そこに同行させていただくことがありました。当時、家庭医療専攻医であった奥知久先生(http://coffeedoctors.jp/doctors/4099/)が中心となって、慢性期疾患などの対応のため、被災地に数人の家庭医専攻医をリレー方式で長期的に派遣するというプロジェクトでした。私たちが伺ったのは、石巻市雄勝町という市街地から車で40分~1時間程度かかる医療過疎地域。そこでは、私は救護所の医療支援の他、被災した雄勝診療所の立ち上げにも関わりました。具体的には、患者さんや家族の情報の整理や、当時薬剤師さんがいなかったため処方できる薬にも限りがあったため、何を優先的に発注するかを調整したりしていました。その後は、次の医師、また次の医師へと情報を伝達し、グループとして診療所で地域のコミュニティづくりに携わりました。

被災地では、急性期対応をする医療チームが引き上げた後の地域の方の健康管理も大切です。不眠や病院へ行けない方たちのため気軽に医師に相談出来る場所として、診療所に地域のコミュニティをつくる取り組みをしました。一緒に体操をしたり、待合室でお茶会を開いたり。こうした地域にコミュニティをつくることが最終的に健康維持につながると実感した経験になります。

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医師プロフィール

遠藤 貴士 家庭医

福島県出身。2007年日本医科大学医学部卒業。初期研修では横須賀市立うわまち病院に在籍、岐阜県久瀬診療所にて地域医療研修を経験。2009年から諏訪中央病院にて後期研修、2011年9-10月に石巻での復興支援を行った。2015年石巻市立病院に異動した。2019年9月から福島県郡山市のモミの木クリニックにて勤務。

遠藤 貴士
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