美容医療の実際
普段の先生の仕事について教えてください。
美容医療と言うと、テレビの影響もあってか大掛かりな手術ばかりを行うイメージを持たれる方も多いのですが、実際の所、私たちのクリニックではしみ・あざなどに対するレーザー治療や注射による治療の方が圧倒的に多いです。
診察では患者さんとのコミュニケーションを第一に考えて、その人が持っている悩みを引き出し、解決する事を重視しています。
ですので、私たち医師側が一定の美しさに向かって「こういうものを作る」と言うよりも、それぞれの患者さんが望む方向に近くなるようなお手伝いをしている感じですね。
もちろん、その望まれる方向に近づくためにより良い案があれば、それを提案する事もあります。また、あまりにも極端な希望をされる方には、「それは全く美しくないです」とはっきりお伝えし、時に治療をお断りすることもありますが、基本的には患者さんの希望を尊重するのが一番だと考えています。
「美しさ」というのは、一定のところに向かっているわけではなく、その人が気持ちよく元気に生活できる事が重要だと私は考えています。
例えば、化粧する時に気になっていたしわが解決するだけで、とても印象が変わります。私はそれでいいと思っています。みんなが一つのゴールを目指すというよりは、自分の中で、「ちょっときれいかな」、「年の割にはいいんじゃないかな」と言う位がこれからますます必要とされる事なのではないかと考えます。
意外に使える美容医療の技術!
今後の美容医療に必要なことはなんだと思いますか
美容医療は形成外科の一部に属するのですが、同じ分野の形成外科医はもちろん、同じ範囲を治療する事の多い皮膚科医でも、美容医療の知識を知らないことがあります。
「怪しい」などと言われたりもしますが、美容医療はこの10年程で技術や器械が進化して、ほぼ分野として完成してきています。時期的には、美容医療の技術で出来る事や、目的のために必要な治療方法が体系的にまとまりつつある段階です。
それによって、しみ・あざ・腫瘍などの治療において、今まで形成外科や皮膚科の分野では手術をする以外方法がなかった事や、手術後のアフターケアができていなかった事が、美容医療の器械を使う事で、場合によって状態を緩和させたり、手術跡を目立たなくしたりという事が出来るようにもなっています。
医師がその事を知らないがために、患者さんに対して選択肢を提示できない場合がまだまだあるので、これからますます多くの一般の方や医療者に伝えていきたいと考えています。そのためには、美容医療医自らが広めて行く必要があるとも感じています。
今後の美容医療の発展と課題
今後の美容医療の課題は何だと思われますか。
先程もお話したように、美容医療の分野は完成しつつあり、器械や技術はかなりの進歩を遂げ、美容医療以外でも活用できるようになっています。また、世界ではより改良された新たな器械が開発されています。しかしながら、日本ではまだまだ美容医療は「医学的ではない」という認識が一部にあるために、欧米や韓国などと比べて、新しい器械が入るスピードや、その効果の検証スピードがとても遅いです。
美容医療の器械は、実は人種によっても調整が必要なんです。国によって肌の質に違いがあるので、一つの仕様で同様の結果がでるかというと全く違います。その為、日本に入ってくる時は、日本人の肌に合うか試したデータがないと全く使えないのですが、そのデータというのがほとんどありません。
その為新しい器械が入りにくい現状があるのですが、これは国内メーカーが存在しないという事も大きな理由の一つとして挙げられます。
日本の技術力を活用して美容医療のレーザーを作れば、日本人に合ったとても精巧な物を作れるのではないかと私は考えるので、そのためにも、美容医療の地位を確立し、医師が見ても「医療なんだ」と思える様、更なる啓蒙活動が必要だと感じます。
美容医療の技術を広めるために、今後先生がされようとしている事はありますか
現在美容医療が行われている多くは個人開業のクリニックであり、学べる場が限られています。大学病院や市中病院の勤務医にはなかなか知識を得る機会がありません。私自身どのように学んでいけばよいのかよくわからず、困ることがよくありました。現在は新しい知識を得るために美容関連の学会や器械メーカー主催の勉強会に出来る限り参加しています。また、ゆくゆくは、自分自身から情報を発信できればと考えています。「整形外科、形成外科や皮膚科の技術と組み合わせることで、より良い医療を提供できる」という事を他の科の医師にももっと知ってほしいですね。
ただそれは自分一人でできる訳ではないので、器械メーカーや、他の美容医療医と連携していきたいと思います。そのためにも、まずは自分の出来ることから始めようと思い、色々な学会や勉強会に参加し、発表をしていきたいと思っています。それを続けることで、「ここでこういうのをやっている人がいる」と知ってもらえるのではないかと考えています。
研修医の中には美容医療に興味のある人もいますが、美容医療でのキャリアに関してアドバイスをお願いします。
最近は、研修が終わってすぐに美容医療の分野に入っていく人もいますが、敢えて言うとすれば、長期的なキャリアパスを考える時に、皮膚科や形成外科、それ以外の科の知識もきちんと学んでから美容医療を行う方がいいのではないかと私は考えています。
私自身は形成外科医として働きながら美容医療を学んでいましたが、一通り全体を学ぶ事で、美容医療の位置づけやその周辺の様々なことが知れました。それによって患者さんに伝えられる解決策や、治療の選択肢も増え、結果としてよりよい治療が出来ると考えています。
「これはこの方法でしか解決できません」と言い切ってしまうより、「こんな方法でもできますよ」という風に言える方がいいですよね。美容医療医になる前に、形成外科・皮膚科・内科などで培った知識や技術は必ずプラスになると思います。ぜひ様々な分野の知識を学んで、患者さんにより良い医療を提供出来るようになってほしいですね。
ライター・インタビュアー/山岸 祐子・福士 侑生