INTERVIEW
リアリティで医学知識と実践の架け橋になる
人間の反射、痛みを再現し、「オエッ」「いたっ」と内視鏡検査や気管挿管の技術を評価できる医療用シミュレータロボット「mikoto」。鳥取県米子市に本社がある企業と、鳥取大学医学部副学長を務める中村廣繁先生が共同開発しました。mikoto開発の背景には、中村先生の医学教育に対する想いがありました。
2017年3月に販売を始めたmikotoでは、気管挿管と消化管内視鏡検査、そして喀痰吸引の3トレーニングが可能なシミュレータロボットです。シングルタスクとマルチタスクの2パターンあり、シングルタスクでは気管内挿管のみ、マルチタスクは3つ全てのトレーニングに対応しています。
株式会社MICOTOテクノロジー(旧:株式会社テムザック技術研究所)との共同開発で、1年半程で販売に辿り着きました。もともと、ロボット技術を医療現場に活かそうという交流があり、触覚センサーを付けた鉗子開発を共同で行ったこともあったんですね。(株)MICOTOテクノロジーが鳥取県米子市に本社を構えることになり、「とっとり発医療機器開発支援事業」という、鳥取大学と県内中小企業者が共同で取り組む医療機器開発プロジェクトを、県が委託することにより支援する制度があり、それを利用して開発を進めました。
mikotoの名前の由来は、出雲大社に祀られている大国主命(オオクニヌシノミコト)です。鳥取県ではしばしば、大国主命に聴診器を持たせ、因幡の素兎に往診カバンを持たせたイラストを使っているんですね。日本神話の神様は、医療の神様であり、命を吹き込んでくれるという意味合いから、命がこもっていることを想起させるmikotoと名付けました。「“生命(いのち)”感じるロボット」というキャッチコピーにも示しています。
私たち以外にもさまざまな企業が製作していますが、mikotoの特徴は、本物の患者さんに近いリアリティがあること、また、手技の正確性を評価できることです。
患者さんに似せるために、反射と痛みの再現ができるセンサーをつけました。そのため、咽頭の奥に器具が当たると「オエッ」と言いますし、鼻腔の奥に当たると「いたっ」と言います。他にも、何となく施術者の方向を見ているような目線で瞬きもするので、患者さんに見られている緊張感もあります。
反射と痛みを再現するためには、口腔内や鼻腔の奥を忠実に再現することが重要です。私たちは、3Dプリンタで実際の人間のCTスキャンを模型にし、人間の口腔内、咽頭の奥を作りました。そして口の形はさまざまですので、開き具合を3段階で調整できるようにしています。鼻の中の鼻粘膜、鼻中隔についても、鼻中隔がまっすぐになっている人はめったにいないので、操作ひとつで鼻中隔湾曲症を自由に作れるようにしました。鼻腔内をここまで正確に再現したシミュレータは、今までほとんどありませんでした。
そして、操作で少しずつmikotoの特徴が変わるので、それによって手技の難易度を変えることができるのです。手技の正確性は点数化されます。反射や痛みが出ると点数が下がったり、気管挿管で間違って胃の中に空気が入ると赤いブザーが光ったり、逆に正しく気管内挿管されると肺が膨らんで完遂できたことが分かったりします。手技の評価が点数化されると、上手くできているのかが可視化され、モチベーションが上がりますよね。
PROFILE
鳥取大学
中村 廣繁
鳥取大学医学部副学部長/胸部外科学分野 教授/シミュレーションセンター長
1984年鳥取大学医学部卒業、1988年同大学医学研究科博士課程修了。同大学医学部附属病院や県内の病院にて外科としての研鑽を積み、1998年、米国ワシントン州立大学留学、帰国後、2001年国立米子病院呼吸器外科医長、2004年国立病院機構米子医療センター外科系診療部長を歴任。2005年から鳥取大学医学部附属病院胸部外科科長/准教授を務め、2013年に胸部外科学分野教授、2015年にシミュレーションセンター長、2015年に副学部長に就任、現在に至る。