大都市、若年層に広がる感染症を懸念
―なぜ性感染症クリニックを開業したのですか?
近年、日本では性感染症が急激に増えています。 例えば性感染症の1つである梅毒は、2012 年までは年間 500~800 人台を推移していましたが、2013 年に 1200 人を突破、以降、年々急増していて、2018 年には 5826 人にまで達しています。5 年間で 6.7 倍に増えたわけです。そして、この数はまだ増え続けています。
特に大都市中心に20 代の女性の間で急増していることがデータでも示されていて、2012年の東京都の20-29歳女性の報告数15に対し、2018年には339と22.6倍にも増加しました。梅毒だけではなく、HIV、淋病、クラミジア、性器ヘルペスなども問題になっています。
そのような日本の性感染症の現状に対して、私は危機感を覚えていました。病院で勤務していても、患者さんからは、症状に気付いていても病院まで足が遠い、どこの病院に行っていいかも分からないし、人に聞けない・知られたくない、仕事が忙しくて日中に受診できない、などの声を聞いていました。
そこでまずは、皆さんが困った時に身近な存在となるクリニックの開設の必要性を感じ、2019年7月、東京都文京区湯島に性感染症専門のクリニック「パーソナルヘルスクリニック」を開設しました。
身近な相談所であり予防・啓蒙の拠点に
―具体的にパーソナルヘルスクリニックでは、どのようなことをしているのですか?
当クリニックでは性病で悩む方達や症状は無いけれど、感染リスクがあったことで心配になっている方達の相談を受け、不安を取るためにどんな検査を受けたら良いか提案し、その場で検査を受けて頂きます。あとは性病に適切な治療とフォローを行っています。とくに心がけている事は、性とのつき合い方、性病の感染経路や予防に対する知識を伝え、パートナーの方への説明やどう性病と向き合って行くかを一緒に考えています。今はとくに若い世代の方たちに、もっと性病のことを知ってもらいたいと考えていて、皆さんがいつもスマホで情報収集している事もあり、SNSで正しい情報の発信をし、オンライン(LINEなど)で相談できる窓口も作っています。
(LINE相談窓口:https://ph-clinic.org/blog/189/)
性病の感染リスクが高い人口では調べると3割くらいの人たちが、何らかの性感染症に感染している可能性があることも分かっており、今後、海外からの観光客や働く人が増えると、性感染症も複雑化する可能性があると考えます。そこで少しでも性感染症の予防や啓蒙に力を入れていきたいと考えています。今私が所属している国立国際医療研究センター内にはいくつかのセンターがありますが、国内外の感染症の拠点として予防から治療、研究以外にも多くの役割を担っている国際感染症センター(DCC)や国内外でHIV感染症に対する高度かつ最先端の医療提供を行なっているエイズ治療・研究開発センター(ACC)とも今後は連携していきたいと思っています。
皆様には性病についてもっと理解を深めてほしいのと、パートナーの方と安心してお付き合いできるように、そしてご自身の将来のためにも是非一度検査を受けてみてほしいと思います。
感染症の専門家として大切にしたいこと
―現在の活動にたどり着くまでのことを教えてください。
私は30歳まで、東アフリカのケニアで医師として働いていました。ケニアはマサイ族という民族や、ライオン、ゾウなどの野生動物の生息地としてよく知られていますが、きっとほとんどの方には馴染みのない国だと思います。私はケニアで、主に産婦人科医として働いていましたが、広い分野で診療することが求められるため、エイズやマラリア、結核などの感染症を合併する患者さんをたくさん診てきました。
今、日本ではがんで亡くなる方が多いですが、ケニアでは未だに死因の5割以上が感染症です。中でもエイズで亡くなる方たちは多く、その方たちが残した子どもたちを私の両親はNPO活動としてケニアでエイズ孤児院を運営しています。
こういった背景があり、私は、日本に来てから国立国際医療研究センターで感染症を専門に学んできました。現在は、エイズ治療・研究開発センター(ACC)にてHIV/エイズを含む性感染症の臨床研究を進めていて、特にHIV、梅毒、HPV感染症などの診療を専門としています。
―今後の展開はどのように思い描いていますか?
クリニックでは今後オンラインでの情報発信や、勉強会、講演を企画して、一般の方々に性感染症のことを知ってもらう活動をしていきたいと思っています。また、海外から来られる方達への医療サポートを実施し、輸入される感染症を少しでも把握・予防できるような活動に繋がればいいと考えています。
性感染症は日々の生活の中でとてもプライベートな問題なので、一人で悩みを抱えている方々が大勢いらっしゃると思います。そういった方々に少しでも安心していただけるよう検査、治療だけではなく、さまざまな疑問に対して親身になってお話しを聞かせてもらうことを第一に心がけていきたいです。