coFFee doctors – ドクターズドクターズ

INTERVIEW

国立保健医療科学院

公衆衛生学

齋藤 智也

人と人、研究と行政、境界領域に立つ

「私の研究は、まさに境界の領域にある」そう語るのは、国立保健医療科学院で上席主任研究官を務める齋藤智也先生。現在、ヘルスセキュリティ分野で研究活動に尽力する傍ら、日本の危機管理体制の構築やヘルスセキュリティ分野のキャリアパスを明確にするために活動しています。医学部を卒業後、感染症の研究に従事し、行政へ――。このように活動領域を広げてきた齋藤先生が抱く課題感と若手に伝えたい思いとは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1
  • 2
  • 3

触れにくい境界領域へ挑む

―現在、国立保健医療科学院ではどのような取り組みをされているのですか?

国立保健医療科学院では、研究や研修を通じて国内外の「ヘルスセキュリティ」強化に向けた活動を行っています。ここで言うヘルスセキュリティとは、健康危機を及ぼす危険因子を想定し、予防・準備・検知・対応など、健康を守るための危機管理体制のことを指します。イギリスへ留学したことをきっかけに、日本の危機管理体制の脆さに課題感を抱いたことが原点となり、現在のヘルスセキュリティ強化の活動につながっています。

具体的には、「プリペアドネス」といわれる公衆衛生に関する対策を自治体に根付かせ、日本の危機管理サイクルを整える仕事をしています。イギリスなどでは危機管理に対する訓練や準備をする専門部門がありますが、残念ながら日本には現在そういった部門はありません。日本の危機管理体制の質を向上させるべく、このプリペアドネスの活動を通じて、国内にもしっかりとした体制を構築していきたいです。

さらには消防や警察、自衛隊などの他機関との連携を図る活動も進めています。例えば、新型インフルエンザや生物テロが生じたとき、公衆衛生部門だけで事態を終息させるのは難しいため、様々な機関との協力関係は非常に重要になります。このような関係を構築するお手伝いをしています。

他機関との連携において難しいのは、やはりコミュニケーションギャップがあること。お互いの認識にズレが生じると、連携もそう上手くはいきません。そのため、ちょっとした理解のズレがどこにあるのか、どのようにしたらそのズレを解消できるか、という点に特に気をつけながら日々仕事をしています。過去には、厚生労働省で国内外問わず外部との中間に立って連携する仕事に従事していたので、その時の経験が今生かされていると思います。

―ヘルスセキュリティの中でも、特にどのような研究に注力されているのですか?

私は、ヘルスセキュリティの中に含まれる「バイオセキュリティ」という領域の研究に注力しています。具体的には、感染症流行や生物学的脅威に対し、包括的な防衛策を扱う分野のことを指します。これまでは公衆衛生学や国際保健学、安全保障学などの観点から研究がされてきましたが、近年複雑化する生物学的脅威に対処するべく、それぞれの学問を包括的に扱う必要が出てきています。公衆衛生と安全保障の両方の観点から感染症を見るという新しい学問領域として「バイオセキュリティ」を確立すること、そしてキャリアパスの明確化にも取り組んでいます。

―ヘルスセキュリティやバイオセキュリティという言葉は初めて聞きました。

現在、ヘルスセキュリティはまだ学問として確立されていません。ヘルスセキュリティに内在するバイオセキュリティ分野に焦点を置くと、感染症を公衆衛生と安全保障の両面から見るという境界領域に挑むので、研究を志す若手からすると、論文は書きにくく就職先もほとんど無いので、キャリアパスを描くことは難しいのが現状です。ですので、ヘルスセキュリティ領域でのキャリアパスを確立するための取り組みも進めています。

取り組みとしては、ヘルスセキュリティをできるだけ分かりやすく説明した書籍の出版や公衆衛生大学院と連携しながら、ヘルスセキュリティやバイオセキュリティを学べる教育拠点を今後つくりたいと思っています。

  • 1
  • 2
  • 3

PROFILE

齋藤 智也

国立保健医療科学院

齋藤 智也

国立保健医療科学院 健康危機管理研究部 上席主任研究官
2000年に慶應義塾大学医学部卒業後、5年間同大学の熱帯医学寄生虫学にて基礎研究に従事。2005年に渡米しMPHを取得。2007年には慶應義塾大学医学部の助教、2008年には同大学グローバルセキュリティ研究所の研究員を兼任し、2010年にはイギリスの健康保護庁の訪問研究員として研究活動に尽力する。翌2011年に厚生労働省に出向後、大臣官房厚生科学課健康危機管理対策室国際健康危機管理調整官などを務め、2014年から現職。

↑