INTERVIEW
不安とストレスで悩まない技術を広めよう
厚生労働省の調査では、働く人の半数以上が「職場で強い不安やストレスを感じている」と答えており、メンタルヘルス対策の必要性が叫ばれています。しかしいざ考えてみると、私たちは不安やストレスに対処する方法を学校でも会社でも教えてもらっていません。
そこで今回は、さまざまな企業の産業医として、また日本ストレスチェック協会の代表理事としてもご活躍されている武神健之先生に、元外科医からみたメンタルヘルス対策について教えていただきました。年間約1000人の社員と面談を行う中で見えてきた、不安とストレスに悩まないコツとは?
週に2日間はクリニックと病院で大腸内視鏡医として仕事をしており、残りの3日間は都内の外資系企業を中心に産業医の仕事をしています。もともとは外科医で、大腸肛門外科と大腸内視鏡を専門としていました。帰国子女で英語が得意だったこともあり、大学院生の時に最初は週1日だけ、外資系の金融企業で産業医を始めたのですが、それが週2日になり、週3日になり……と、紹介により次第に増えて、今に至ります。
産業医というのは、医師という専門的な立場から主に会社の環境に働きかけて、社員の皆さんが快適に仕事に取り組めるようにする存在です。私は、産業医とは会社と社員の間に立って両者の妥協点を見つけたり、部門間のコミュニケーションを高めたりする「ファシリテーター」のような役割を担う存在だと考えています。現在は大きい会社だと週2回、小さい会社では月1〜2回ぐらいの頻度で訪問し、一人あたり20分から30分程度の時間を取って、会社で働く皆さんと面談を行っています。
社員の皆さんから受ける相談は、体の健康についての悩みとメンタルヘルスに関する悩みが半々ぐらいです。最近は、親の介護や身内の病気の事などで相談に来る人もいます。ご本人の検査や治療について相談を受けたときは、希望があれば病院を紹介するようにしています。
私が意識しているのは、厚生労働省が提唱する「4つのケア」を俯瞰的に見て、企業と人をコーディネートすることです。「4つのケア」というのは、一つ目が社員の皆さん自身が自分をケアする「セルフケア」で、二つ目は上長等が行う「ラインケア」、人事部や産業医など社内のスタッフによるケアが三つ目で、四つ目は専門機関が提供する従業員支援プログラム(Employee Assistance Program: EAP)の活用や街の医師によるケアなど、社外の専門家によるサポートです。メンタルヘルス対策ではこの「4つのケア」がうまく連携して機能することが大切なのですが、これをバラバラに行ってしまっていて、うまく機能していない企業が多いように感じています。
企業の中では、社員の皆さんに、病院へ行く前に一歩立ち寄ってもらえる場所でありたいと考えています。例えば、腰が痛くて病院へ行こうと思ったとき、大学病院へ行くのがいいのか、街の小さなクリニックのほうがいいのか、迷うことがあるかもしれません。実際の医療現場では、腰痛程度で大学病院の外来に行くと、先生に嫌な顔をされた上、レントゲンやMRIなど希望通りの検査はしてもらえない可能性があります。また、検査を予約できたとしても1カ月先だったり、結果を聞くために何回も受診をしなければならなかったりすることもあります。大学病院は難しい病気の患者さんだけで手一杯だからです。でも、地域の整形外科クリニックに行けば、ちゃんと話を聞いてくれて、レントゲンやMRIなどの詳しい検査も比較的すんなりしてもらえる可能性が高いのです。社員の皆さんにはこのような話をして、病院やクリニック選びのお手伝いをします。
一般の方が持っている医療の情報は、まだ少ないのが現状だと思います。このようなときに病院や医師の事情を知っている医療従事者に一言でも相談できると、患者さんにとっても病院にとっても良い選択をすることができます。医療に関する知識や情報を社員の皆さんに伝え、役立ててもらえることは、産業医としてやりがいを感じる部分でもあります。
PROFILE
一般社団法人 日本ストレスチェック協会 代表理事
武神 健之
1998年 神戸大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院、キッコーマン総合病院等に勤務。東京大学医学部大学院在籍中の2005年に有限会社ジーエムシーを設立し様々な企業の産業医を新規立ち上げから請け負う。年間約1000人の産業医面談を行ってきた経験から、2014年に不安とストレスに悩まない技術を広めることを理念として一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、現在に至る。
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