グローバルに活躍する美容外科医として
どのようなスケジュールでお仕事をされているのですか?
現在は、主に表参道にあるヘレネビューティークリニックで診療を行っています。提携クリニックが上海とミャンマーにあるので、そちらで診療を行うこともあります。将来的にはシンガポールでも医療を行いたいと思っているので、年の半分はシンガポールに行き、現場のニーズを探りつつ準備をしているところです。
アジアを視野に入れている理由は、そもそも日本だけではなく海外へ出て、グローバルな環境で仕事をしたいという考えがあったからです。子どもがまだ小さいので、安全で教育がしっかりしており、日本からあまり遠くないところで、と考えました。アジアの中でもミャンマーやシンガポールを選んだのは、人とのつながりや紹介からです。美容外科は今後、若い人が多い他のアジア諸国でも広がっていくと思いますが、重要な点は「誰と組んでやるのか」だと考えているので、そこを考慮しながら動いています。
韓国などでは美容外科が流行していますが、日本の強みは何でしょうか?
美容外科における日本の強みというのは、実はあまりないんです。逆に韓国などのほうが海外戦略に長けているのではないでしょうか。国もバックアップしているので、その辺りが日本とは違います。
日本でもクールジャパンの推進などで国が支援する話はあるのですが、結局国の事業をサポートするという形になってしまうので……。それなら、と自分で海外に飛び込んでいって、独自にコネクションを作って展開している人もいます。
美容外科を続ける理由
先生が美容外科を続ける理由は何ですか?
美容外科の分野は商業主義が進み過ぎたところがあると思っています。自費診療を勧めたことで商売ベースになってしまい、どんどん医療の表舞台から遠ざかってしまった印象です。これを本来あるべきところに戻したいという思いがあります。
美容外科を専門にしている先生の中には、自分の子どもに自信を持って「お父さんはこういう仕事をしていて、人を幸せにしているんだよ」と言えない人も多いんです。つまり、携わっている自分たち自身が「美容外科は裏の仕事」と認識しているのです。これは良い事ではないし、業界としても健全ではないですよね。ですから「美容外科は医療なんだ」というところへ戻していければと考えています。
美容外科をやっていてうれしいのはどのようなときですか?
今まで悪かったところが治って良くなったというのではなく、「より良くなった」「QOLが上がった」「コンプレックスがなくなった」というように、プラスの部分で患者さんに喜ばれる仕事ですので、そういうところはやはりうれしいですね。
ですが美容外科というのは、本来はあまり必要でない分野だと思っているんです。東日本大震災の時には自分の存在意義を改めて考えて、被災地であんなに苦しんでいる人がいるのに、自分はこんな仕事をしていていいのかと、何度も自問自答しました。けれどもそこで悩んだ結果、美容外科というのは、付加価値を付けてゼロをプラスにすることで喜ばれる仕事なんだ、と思うようになりました。
高齢化社会が進んでいくと、日常のちょっとした不自由さを解消する「周辺の医療」が重要になってくるのではないかと思います。今は大きな病気を持たない元気なお年寄りが増えているので、より快適で良い生活をしたいという望みを叶えていくことが大切だと考えています。
今後は海外へ
今後、さらなるクリニックの展開なども考えていますか?
日本では美容外科は飽和状態に近づいているので、今後は海外、特にアジア圏で新しい市場を開拓していきたいと考えています。アジアには日本人や日本の技術がリスペクトされている国が多く存在します。最初に話した通り、まずはシンガポールに開院したいですね。
海外で活躍したいと考えている医師も多いので、そういう人たちを集めて一緒に海外へ出て行くのも面白いかなと思います。その際は単に医療技術を提供するのではなく、ノウハウを現地に伝えていくことも大切にしたいですね。
医療は飲食業やアパレル業のような他の業界とは違い、医師免許というライセンスが必要なので、日本から行く場合はそれぞれの医師がその国の医師免許を取得しなければなりません。そこが難しい点ではあるのですが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済統合が行われると、ASEAN医師免許に切り替わるので、それを見据えて準備をしています。
前職で広くクリニック展開を行って学んだことは、医療というのは人の手で一つ一つ行っていく、現場のものなんだということです。広く展開していくほど、医療技術や安全性の担保が重要になります。ですので、医療者の技術を高め、サービス面の充実も図った上で、市場があれば1店舗ずつ増やしていきたいとは思います。しかし「きちんとした医療を提供する」というところが原点ですので、クリニックを増やしていくのは、それが満たされた上での話だと考えています。
ご自身の今後について聞かせてください。
これから日本で大きな問題となってくるのは、社会保障の部分です。高齢化によって医療費がどんどん膨れ上がってきているので、この先は今の社会システムでは対応できなくなるでしょう。昔作られた医療体制は世の中にフィットしていないと感じている部分もあり、今後新たに作りかえていく必要があると思います。ですが、政治しか分からない人、医療しか分からない人だと、恐らくそういう面での再構築は難しいですよね。だから、政治の世界にも他分野の知識を持つ「+αな人」をもっと増やす必要があると思います。
どんな人でも、その人自身が持っている能力や才能で助けられる人がいると思うんです。今の自分は、美容外科のスキルを提供することで周りの人に喜んでもらうことができると考えているから、美容外科をやっています。でも、10年後には今より知識やスキルが増えて、自分が持つ能力も高くなっていると思うので、将来的には国政にも関わっていきたいという気持ちはありますね。