簡単でおいしくて健康に良いレシピを

「食」に興味を持ったきっかけを教えてください。

子どものころから料理を手伝うのが好きでした。でも本格的に料理にはまったのは大学に入ってからです。食べることにはこだわりがあって、ハンバーガーやカップラーメンは10代の最初のころに少し食べたきり、もう食べていません。子どものころからお肉よりも野菜が大好きでしたね。大学時代はレストランやカフェでアルバイトもしていました。そういうなかで自然と健康に良くておいしい食事や予防医学について考えるようになりました。

大学生のころにちょうど日本でも予防医学が広がり始めて、抗加齢医学会ができました。もともと予防医学にはとても興味がありましたが、それ以上に、病気にならないためにはどういうことに気をつけていったらいいのかというところがずっと関心のある分野なんです。大学でいろいろな病気を学びながら私が興味を持ったのは、なぜ人は病気になってしまうのだろうということでした。

医師になり、実際に糖尿病の患者さんに質問をしてみると、食事のバランスが極端に悪くなっている方が8割以上でした。具体的に言うと、白米や麺類のような精製された炭水化物を取り過ぎている方が多いのです。そういう患者さんに炭水化物を減らしてくださいと伝えると、「それでは何を食べたらいいですか」とか「野菜はどうやって食べたらいいですか」という質問を多く受けます。そこで、料理の仕方をアドバイスしたり簡単に作れるレシピをお渡ししたりしてきました。今のクリニックではアレルギーの方も多く診ているので、卵や乳製品を使わないレシピもお伝えしています。

レシピを考えるときは、「簡単でおいしい」というところにすごくこだわっています。特別なものは使わず、仕事が終わって帰ってきてからでもぱっと作れるメニューです。さらに抗酸化、抗炎症、抗糖化というところも意識しています。

新しいものをつくることが好きなんですね。新しい食材を試したり色と味の組み合わせを発想したり、料理のそういうクリエイティブなところが好きなんです。実際にシェフになろうかと迷ったこともあるぐらい。独自の道を進んでいる感じですが、こういう医師がいてもいいんじゃないかなと思っています。

食べる順番と量を意識する

医師として食に関わってきて、どのようなことを感じていますか？

現代の慢性疾患の多くはミネラルのバランスが崩れるために起きるのではないかと考えています。例えばインスリンの分泌には亜鉛が必要ですが、亜鉛不足で糖尿病になってしまうことがあります。またエネルギーの代謝にはビタミンB群が関わってきますが、ビタミンB群の不足でエネルギーをうまく作り出すことができずに太りやすくなり、脂肪肝や炎症につながってくることもあるのです。

忙しい人に多い外食や手っ取り早くカロリーを取るような食事は、精製された炭水化物が多くなりがちです。朝はコンビニで買ったサンドイッチと野菜ジュース、お昼はおにぎりを二つ食べて、夜に牛丼やカレー、ラーメンとなれば、もう8割ぐらいが炭水化物です。こうなると体の細胞の材料となるタンパク質は10%を切ってしまいます。

昔の食生活は優れていたという話もありますが、現代はライフスタイルそのものが大きく変化しています。パソコンも車もなく長時間の農作業を行っていた時代には、すぐに使える熱量が必要でしたが、そのころの食事をそのまま現代に持ってきてしまうと、カロリーは取れるけれども現代人に必要な栄養素は少ない、といったことになってしまうのです。

現代の食事として私がお勧めしているのは、最初に野菜を食べ、次に肉や魚を適量食べて、最後に玄米や雑穀を少量取るというものです。野菜、肉や魚、ごはんの割合は、3、2、1となるように意識すると良いですね。ミネラルとビタミンを効率良く取るためには、野菜を味方につけてほしいです。

健康に良い食事をするために、日頃から簡単に意識できることはありますか？

一つは食べる順番と量ですね。いまお話したように、まず野菜とメイン料理を食べる。それだけだと腹持ちが悪いので、最後に少量の炭水化物を取るという感じです。食べる順番で血糖値も大きく変わってきます。先に食物繊維やタンパク質が入った状態のほうが血糖値の急上昇を抑えることができるのです。ごはんは食事の最後に、おなかの満腹度を調節するために少し食べるというぐらいがちょうど良いと考えています。ごはんとおかずを一緒に食べようとするとどうしても味が濃くなってしまいますが、このような食べ方であれば味付けも薄くて済みます。

もう一つは色です。赤色のものにはβカロテンが含まれていたり、紫色のものにはアントシアニンが入っていたり、というように色というのは栄養素です。ですから、とにかく色とりどりになるように意識して食べることをお勧めしています。

食べ物は副作用のない薬

現在はどのように毎日を過ごしていますか？

週に4日はクリニックで勤務をしていますが、1日はカフェで働かせてもらっています。残りの日はセミナーをしたり、取材を受けたり、雑誌のレシピ提案をしたり……。雑誌ではレシピの提案だけではなく実際の調理まで自分で行っていますし、フードスタイリングもします。医師とシェフと管理栄養士の3役をやっているような感じですね。

料理が好きで教えることも好きなので、月1回はサークルのように集まって、若い女性たちと一緒に健康に良くておいしいメニューを一緒に作り、実際に食べてもらうということもやっています。料理する人というのは、家庭のホームドクターだと思います。そこを育てていくような仕事がしたいですね。これからの時代は男女問わずキッチンに立ってもらい、週末だけでも自分が作ったおいしくて安全なものを食べる。そんなきっかけづくりができればいいなと思っています。

今後の活動としては、どのようなことを考えていますか？

既に始めていますが、糖尿病や高血圧、高脂血症などの予防につながる栄養指導をしていきたいと考えています。栄養指導というと病気になってしまった人のためのものというイメージがありますが、私がやっていきたいのは健康な人を対象とした栄養指導です。こうしないと病気になりますよと恐怖を与えるのではなく、こういうことに気をつけていけば病気を防いでいけますよというアドバイスをしていきたいですね。「治療家」ではなく「予防家」になりたいと思っています。食べ物は副作用のない薬です。健康の基本は食からと考えています。

いま注目しているのは、腸内環境と発酵食材です。特に、日本のスーパーフードであるみその勉強をしています。オーガニックの大豆やひよこ豆、天日塩、玄米麹で作る自家製みそ教室を開いたり、みそを使ったファスティングの指導をしたりもしています。みそは天然のサプリメントです。皆様にもっと活用していただけるよう日本初の「misoドクター」として活動していきたいと思っています。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

食べることができるというのは、すごく幸せなことだと思います。一つの料理ができあがるまでには、生産者から料理人まで多くの人が関わっています。ですので、いつも感謝の気持ちを忘れずおいしくいただいて健康に役立ててほしいですね。できるなら食事は簡単に済ませてしまうのではなく、自分で作ったおいしくて健康に良いものを食べてほしいし、気持ちのこもった料理を誰かと一緒に楽しく食べてほしい。「医食同源」という言葉の通り、食べることというのは生きることそのものだと思います。おいしいものを食べて、楽しみながら病気を予防していけたらいいですね。

インタビュー・文 / 木村 恵理