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病院の新規患者数2.5倍増 その秘訣とは?

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病院経営において新患数の増加は、重要な要素の一つです。山形県酒田市の山容病院は、新築移転後、常に前年同月比で新患数が倍増しています。その要因となっていることとは?

前回途上国と同じレベルの精神科病院を変える」という記事で、当院の改革で初診者数が大幅に増えたと書きました。新築移転した2015年9月以降、前年同月比が2.5倍ですが、精神科病院が長期入院患者に頼らない経営を進めていく上で、新患数増加は重要です。そこで改めて、新患数が倍増した理由について分析しました。

◆移転前の状況と目標

移転前の敷地は塀に囲まれ、窓には鉄格子、外来の待合室は狭くて暗い、駐車場はすれ違うのにひと苦労、台風が来れば雨漏り……といった具合に、アメニティがかなり悪かったです。来院患者さんは重症の方が多く、私の講演やラジオ出演を聴いて訪ねてくる方などごく一部が軽症で、そのような方には早期介入できていたという状態でした。そんな中、私は新規患者層として気分障害(主にうつ病)や不安障害の受診増を掲げました。

◆ニーズをつかむ努力

そのほかに、地域の高齢化による認知症患者のさらなる増加に備えて、認知症病棟の設置を計画しました。その際には、認知症患者をサポートしている方々のニーズを正確にくみ取るよう努めました。

着工が数ヵ月後に迫った2014年9~10月、当院がある山形県酒田市を含む「庄内グループホーム連絡協議会」に対し、精神科病院に期待することを問うアンケートを実施し、所属施設の約半数から回答を得ました。

その結果、以下のような要望が浮かび上がりました。

(1)精神科急性期対応

(2)認知症の鑑別診断とそれに基づく指導

(3)身体合併症の治療

(1)については予想通りの結果でした。(2)については、私は3年に渡りこの協議会で講演を行っており、その中で重点的にお話してきたため、ニーズとして上がってきたと考えられます。

そして(3)の要望を受けて、1名しかいない理学療法士の配置を迷っていたのですが、認知症病棟に配置しました。

◆患者家族の教育の必要性

また、グループホーム入所者が精神科病院に入院する際、家族の理解が得られずスムーズに治療介入に移行できないという事例が多いことが、私の実感だけでなくアンケートでも証明されました。そこで患者家族への教育に注力することにしました。

まず、たとえ急性期病棟でも、面会室のみならず病室内でも面会できるようにしました。どんどんベッドサイドに入ってもらい、患者さんの状態、入院中どのようにスタッフが対応しているかなど、病棟での日常を知ってもらえるようにしました。また、家族が参加できる院内行事を増やしました。昨年は、外部から講師を呼んで認知症患者の家族向け講演会を4回開催しました。

こうした取り組みにより、家族や入所先施設の方々との信頼関係ができて、連携がスムーズになったと感じます。家族が医療への理解を深めれば、受診の勧めに応じたり、家族から受診を希望したりするケースが増えます。

ここまで、認知症患者さんに関連する部分を詳しく書きましたが、面会についての考え方や家族から信頼を得る努力などは、他の疾患についても全く同じです。こういった姿勢により、周囲の方々が「精神科なら山容病院を」と勧めてくれるようになり、新患増加につながったと考えています。

◆気分障害・不安障害が増えるまでは時間がかかる

ただ、課題もまだ残っています。

確かに、依存症の患者さんは初期には病気を否認して他罰的なため、アメニティや接遇に敏感です。そのため新築後はアルコール依存症の相談が増え、初診も増えました。上述した理由で認知症の初診も増えました。

しかし、当初の目標であったうつ病などの受診増はなかなか苦労しています。うつ病も少しは増えて初診数の前年比2.5倍に寄与しましたが、想定には程遠い状況です(アルコール依存症と認知症の増加が想定以上だったともいえます)。移転後半年ほど経ってから新聞社主催の講演会、地元局のラジオ番組出演、酒田市関連の講演会などを立て続けにこなしたり、復職・就職支援プログラム(リワーク)の良い影響があったりして、ようやくうつ病の受診増の兆しが出ていますが、今後も方策が必要です。

◆医師を獲得して幅広い医療を維持したい

また、さらに新患が増えれば現在の常勤医3名では対応できなくなりそうです。当院の特徴である、治療対象疾患の豊富さを維持するためにも、医師獲得に奔走し、何とか新たな人材を得ることが重要だと考えています。

さらには、近いうちに内科外来の開設を検討しています。地方は患者さんの選択肢が少ないため、精神科という専門分野を請け負う病院側は選り好みせず、多様な疾患を診ていくのが理想です。そのような考えのもと、内科外来も開設して「コンパクトにまとまった多様性」を実現していきます。

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医師プロフィール

小林 和人 精神科

医療法人山容会理事長
東京大学医学部卒業。同大学付属病院にて研修後、福島県郡山市の針生ヶ丘病院に就職。平成20年に山容病院に就職。平成23年同病院院長に就任、平成26年より現職

小林 和人
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