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精神障がい者が年齢問わず地域に帰れる環境を

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日本の精神障がい者を取り囲む環境を変えることは容易ではなく、退院支援においても難題が数多く存在します。そんな中でも山容病院は、可能な限り多くの精神障がい者の方が退院できるよう、積極的な退院支援に挑戦しています。

◆障がい者の高齢化

日本の精神障害者は320万1千人です(平成27年版 障害者白書(全国版))。そのうち65歳以上の高齢者は、97万4千人で約33%を占めています。平成17年の時点では28.8%でしたので、精神障がい者の方の高齢化が進んでいることが分かります。それに伴って精神障がい者施設利用者の高齢化率も年々、上がっています。全国平均は13.1%ですが、山形県は21.2%、酒田市に至っては26.6%です(第4期酒田市障がい者福祉計画)。

どんな方でも年齢が上がるごとに退院しにくくなるという実態があり、統合失調症患者をはじめとして、高齢の精神障がい者が地域に帰ることが難しくなっています。

障がい者向けサービスは自立や就労への支援が大きな目的となっていますので、高齢の障がい者にとって必ずしも適切とは言えません。65歳以上であれば介護保険が適用され、介護施設という選択肢も出てきますが、そちらでは施設で行われるプログラムに上手く適応できないケースが散見され、スタッフも精神障がい者に慣れていないため対応が難しいことがあります。そして、どのような手続きを進めるにせよ家族の協力は欠かせませんが、家族も高齢化しています。両親がすでに亡くなっていたり、兄弟はそれぞれの家庭があったり、時には兄弟でも患者に会ったことがなかったりする場合すらあります。多くの長期入院者が入院中に家族と疎遠になり、住居を失っています。

◆地域に帰りにくい若年障がい者

精神障害が重度でも比較的若くADLが高い方を退院させ、地域に帰そうと思っても、地域でのサポート体制はまだ不十分です。地域全体の高齢化と人口減少が加速する中で、障がい者向けサービスの充実を図るのは行政としても簡単ではないでしょう。精神障がいが重度な方への手厚い支援は難題ではありますが、ADLが下がり、65歳を超えた時点で介護施設に退院させるというゆがんだ構造は避けなければなりません。 

日本の精神障がい者を取り巻く環境を変えることは容易ではありませんし、精神科病院の役割は、症状を安定させて患者さんを地域に帰すことにもかかわらず、その役割を十分に果たせていない現実に、非常にもどかしさを感じています。ただ、退院支援のハードルが高いことが、退院支援をしない理由にはなりません。精神科病院として、どう取り組んでいけるかという答えは出さなければいけないと思います。厳しい状況の中でも我々精神医療関係者は行政と連携しながら、退院支援に取り組む使命があります。

◆山容病院での取り組み

当院には重度かつ慢性の精神疾患の方が入る精神療養病棟があります。そこでは毎月、法律で実施が定められている以外の方も含んだ全入院患者を対象として退院支援委員会を開催し、退院の可能性を検討しています。その検討をもとに、病院隣に建てたグループホームの集団生活ユニットへの退院を目指す患者グループを組織し、生活技能訓練(SST)や作業療法を実施しています。グループホームは、集団の上のレベルとしての個人生活、自立生活も想定した建築構造としました。自立生活ユニットでは個室内にキッチンや浴室などが揃い、ワンルームのアパートと構造は同じですから、ここでやっていくことで地域に戻るための実績が積めます。

退院は難しいかもと思う患者さんも、こちらですぐに退院できないと判断するのではなく、少しでも退院の可能性が見出せれば積極的に退院支援に入ることにしています。そのように長期入院の方が退院して地域で生活ができるように促してくことで、同じく長期入院している患者さんに「次は私が」と退院の連鎖反応が起こることを願っています。長期入院の方に退院を勧めると、外の世界への恐れから「退院したくない」と言われる場合が多いのですが、実際に退院してから「病院に戻りたい」と言われたことはありません。これが一つの答えだと思いながら、これからも退院支援を続けていきます。

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医師プロフィール

小林 和人 精神科

医療法人山容会理事長 東京大学医学部卒業。同大学付属病院にて研修後、福島県郡山市の針生ヶ丘病院に就職。平成20年に山容病院に就職。平成23年同病院院長に就任、平成26年より現職

小林 和人
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