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ストレスを感じるのはどうして?

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人間は、必ず誰しもがストレスを感じます。それは人間としての宿命とも言えます。実はこのストレスを、人間自ら作り出しているのです。そこでちょっと立ち止まってそのメカニズムを知り、ストレスを軽減してみては―?

◆ストレスを感じるのは人間の宿命

なぜ人間はさまざまな外的刺激に対してストレスを感じるのでしょうか? 扁桃体の暴走を起こす張本人は、脳の認知機能だということがわかっています。認知機能とは人間が進化の過程で獲得した動物よりも優れた脳の力です。それは一言でいうと外界に対して考えることです。何をしたらいいのか、行動の内容を明確にして、実行に結びつける高等な脳機能です。動物は生命維持のためにしか行動できないのですが、人間だけはさまざまな行動の内容をこの認知脳で考え、実行しているわけです。そのおかげで文明が発展したと言っても過言ではありません。文明人であればあるほど、この認知機能は発達していると言えるのです。

この脳は五感で得た外界の情報を処理して、行動の内容に結びつけて行きます。それができるのは人間だけです。この脳の進化が、道具を作り、火を起こすことから始まって、現代社会を作り上げたのです。

同時に、言葉が生まれ、意味が生まれました。これによって、外界の事象への接着度合いがますます高くなりました。常に外界に起こる事象に接着し、そこに意味を見出し、なぜ起こるのか? どうやって解決したらいいのか? そのために何をしたらいいのか? など、私たちの脳はどんどん考えていくようになったのです。別な言い方をすれば、この脳の機能は、休むことなく外界と向き合い、意味を考え、行動を促していくという、とてつもない仕組みなのです。動物は残念ながらそれができません。しかし一方で、人間はこの脳の働きにより自らの心の状態も、外界の事象に左右されてしまうようになったのです。

この高次元の認知機能を手に入れた結果、人間は文明の発展との引き換えに、ストレスを負うようになっていくのです。環境も出来事も他人も、思った通りになることなどはありません。それをどう解決していくのかを考えてきたことによって文明の発展があるのですが、それに向き合ったがために、心には〝揺らぎ〟や〝とらわれ〟といったストレス状態がもたらされ、この認知脳の機能が、扁桃体という脳の中の感情中枢の暴走を惹起するようになっていったのです。動物は問題を解決する脳機能がない一方、ストレスを抱えて鬱になったり、自殺したりすることはほぼありません。すなわち、ストレスはわたしたち現代文明人が、自らの脳機能によって作り出したものなのです。

◆自らの脳がストレスを生み出している

現代においては、生命にかかわるようなことはめったに起きませんが、その代わり、実にさまざまな出来事が1年365日に渡って、朝から晩まで起こり続けます。それらすべてに脳が反応します。さらに、言葉がそのストレッサーを解釈し、意味付けを行います。どんな外界の現象も、もともとは意味など付いていないにもかかわらず、人間だけが意味付けをし、それをストレッサーにして、ストレス状態を惹起しているのです。

例えば、雨が降っているとします。さすがに生命を脅かす雨などは、通常は降らないので、わたしたちは雨が降れば、濡れないようにするための行動、つまり、傘を差します。ただそれだけのことです。にもかかわらず、私たちは、雨に意味付けを行って、心にストレス状態を生み出すのです。濡れるのは嫌だ、とか、傘を持つのはめんどくさいとか、憂鬱だとか、認知脳は考えてしまうのです。これが言葉による意味付けです。そもそも、めんどくさい雨など降っていませんし、嫌で憂鬱な雨など、この世の中に存在しないのです。

それは、私たち人間が言葉により雨に意味付けをしたことによる現象なのです。教育や経験・学習により意味付けはさらに強化され、ストレス状態はますます高じてきます。その証拠に、生まれた日に雨が降っていたからといって、憂鬱でブルーな赤ちゃんなどいませんね。生まれた日の雨も、今日降る雨も実は同じで、ただ水が落ちてくる事象に過ぎないのですが、その事象に対して徐々に意味付けをしていくのが私たち人間だということなのです。

人間だけが、言葉あるがためにそれに意味付けをして、ストレスを生じさせてしまっている。すなわち、私たち人類は「意味」の生き物であり、この意味付けの暴走がストレス状態を私たちに起こしているのです。「明日の朝は早いので超憂鬱だ!」と言う人が周りにいませんか? 朝の五時だろうと、六時だろうと、その時間を「早い」と意味付けしたのは自分自身の脳に他なりません。そもそも早い時間などないし、五時が早いという意味などどこにもないのです。時間さえをも私たちは「意味メガネ」で見てしまい、ストレスを感じる。前日の〇時までに寝て四時に起きましょうという、ただそれだけのことを、私たちの優れた、しかし厄介な脳は受け入れることができず、ストレス状態を生み出し続けるのです。

これを人間としてマネジメントしていくことの大事さに舵をきるのか、このようなストレスを面倒くさいものと捉えAI化にはしるのかの分かれ道となる時代なのです。

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医師プロフィール

辻 秀一 スポーツドクター

エミネクロスメディカルクリニック
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学び、1986年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。1991年NPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドを設立、代表理事に就任。2012年一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げた新リーグNBDLのチーム、東京エクセレンスの代表をつとめる。日本体育協

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