医師7年目の小徳 羅漢(ことく らかん)先生は「お産がとれる総合診療医」を目指し、現在は鹿児島県の奄美大島で産婦人科の研修中です。「産婦人科と総合診療科のダブルボードで離島医療に携わりたい」と話す小徳先生。目指すゴールが定まるまでには悩みや迷いもあったそうですが、なぜそのようなキャリアを歩もうとしているのでしょうか?背景にある思いをじっくりお話いただきました。
◆「お産のとれる総合診療医」を目指す
-現在の活動を教えてください。
「お産のとれる総合診療医」を目指して、現在は奄美大島にある鹿児島県立大島病院で産婦人科医として働いています。妊婦健診、月経困難症、一般的な不妊治療や更年期障害など、全般的な女性診療をしています。ほかには、地域にある看護学校で対話型鑑賞やロールプレイを活用した女性医学の授業をしています。2022年に入ってからは、私たち医師や看護師、薬剤師、学生が奄美の商店街でコーヒーを配り、町の人たちと話をする「暮らしの保健室」も始めました。
-なぜ「暮らしの保健室」を始めたのですか?
離島に限ったことではありませんが、特定初診料や外来の待ち時間などを負担に感じ、病院に行きたがらない方が多くいます。病院ではなく、気軽に医療従事者に相談できる場が求められていると感じていました。医療従事者が病院の外へ出ることで、病院で相談することにハードルが高いと感じる方も気軽に話にきてくれるのでは、と考え「暮らしの保健室」を始めたのです。
実際「暮らしの保健室」を開いてみると、来た方が月経困難症や不妊の悩みを相談されることもありました。奄美大島には産婦人科がある病院は2院しかなく、産婦人科に行きにくいと感じている方も多くいます。
私は、女性が幸せなら島民がみんな幸せになれると考えています。月経困難症など女性の抱える問題をケアできると、女性が元気になり、結果として島全体が元気になる。ですので、産婦人科医である私が町に出て気軽に相談できる場所をつくることは、女性が産婦人科にアクセスしやすくなるので、意味があると考えています。
-離島医療の課題とは何でしょうか?
離島の1番の課題は急速な人口減少にあると考えています。少子高齢化が進み人口減少が進むと、今ある病院や学校などの施設や、お祭りなどの地域の催しなども維持できなくなります。するとさらに島を離れてしまう人が増えてしまう。このような悪循環に陥ると、島に残っている島の方々を元気に、幸せにすることが難しくなります。そして医療だけでは島を元気に、幸せにすることはできません。
だから私は、産婦人科医としては1人でも多くの赤ちゃんをこの島で誕生させ、総合診療医としては予防医療や若い人が元気になること、高齢者の生きがいを作ることなど、医療以外のアプローチをしていきたいと考えています。そのために私は「お産のとれる総合診療医」を目指しているのです。
◆オーストラリアで学んだ離島医療の理想
-そもそも、なぜ離島医療に携わりたいと思ったのですか?
高校の修学旅行で伊王島という長崎県の離島へ行った時、この島の医師は船で通っていて、夜間は医師がいないことを知りました。いつでも治療を受けられることが当たり前だった私にとって、夜間に医師がいない離島の現状に驚き、怖さを感じました。「それならば、将来は自分がこの島で医師になろう」と思ったことが、離島医療を目指したきっかけです。
ところが東京にある大学の医学部に進学すると、離島医療を教えてくれる先生がいなくて、離島医療に触れる機会がありませんでした。そんなとき、伊王島が本土と橋でつながったことを知り、いつしか離島で医師になる夢は薄れていってしまいました。
ただ、地方で働きたいということと、総合的に何でも診られる医師になって地方で働きたいという思いはあり、東京から離れたさまざま県で病院見学していたんです。そんな中、鹿児島市医師会病院を見学した時、テレビドラマ『Dr.コトー診療所』のモデルとなった、甑島(こしきじま)と医師が実在していることを知ったのです。しかも、モデルとなった診療所で研修が受けられると聞きました。その瞬間、忘れていた離島医療への気持ちがむくむくと大きくなり、離島医療に携わる決意を新たにし、鹿児島で研修することにしたのです。
-お産がとれる総合診療医を目指そうと思った経緯を教えてください。
研修医の時には甑島、屋久島、種子島、口永良部島など数多くの島で離島医療を経験させていただきました。その島特有の特性や問題点を知ることで、先ほどお話したような課題が見えてきてーー。人口減少に対抗できる医師になるには、お産が取れる総合診療医だと考えるようになったのです。
ー産婦人科と総合診療の両方を学べる研修プログラムはなく、トレーニングの方法については悩んだのではないでしょうか?
まさにその通りです。どうしようかと悩んでいたら、たまたまゲネプロが運営する「離島・へき地研修プログラム」をご紹介いただきました。そのプログラムでは世界の離島医療を勉強できると知り、初期研修修了後に参加することにしたのです。
同プログラムでは3カ月間、海外で研修する機会がありました。私が希望したのはオーストラリアのRural Generalist(へき地医療専門医)のもとでの研修。Rural Generalistは総合診療医でありながら麻酔や分娩などにも対応していて、まさに私の理想とする離島医療の医師像でした。このように理想の医師像と出会えたのは非常に心強さを感じましたね。
◆離島医療に本当に必要なものを考えていきたい
-今後のビジョンを教えてください。
現時点での目標は、オーストラリアで見たへき地医療を日本の離島で実践することです。産婦人科研修を終えたら総合診療のプログラムを受け、まずは産婦人科医と総合診療医のダブルボードで離島医療に携わっていきたいと考えています。
ですが離島と一括りに言っても、奄美大島のような人口5万人の大きな島もあれば、人口100人ほどの島もあります。それぞれに抱える課題や必要とされることが異なるはずです。産科総合診療医となった時に改めて、本当に必要な離島医療とは何か、離島で働きながら考えていきたいですね。
ゲネプロの研修で訪れたオーストラリア・クイーンズランド州では、電子カルテが全て統一され、遠隔医療が日本以上に身近な存在として導入されていました。離島やへき地と本土の専門医がすぐにコミュニケーションをとれるようになっていて、へき地にいる総合診療医が本土にいる専門医に相談しながら治療することもできていました。
もしかすると日本の離島医療にも、こういったデジタル技術の導入が必要なのかもしれません。また遠隔で操作できるロボットでの治療が必要かもしれません。離島医療に本当に必要なことは何か、しっかり見極めていきたいと思います。あとは産科総合診療医は日本にはほとんどいないので、誰かのロールモデルになれたら嬉しいですね。
-最後に、キャリアに悩む読者に向けてメッセージをお願いします。
私は「Dr.コトー」のモデルになった先生に会いたいという気持ちだけで鹿児島県に来て、そこから人生がどんどん変化していきました。「自分はこうありたい」という純粋な気持ちを大事にしてほしいです。そして、その気持ちを理解してくださる先生は、日本もしくは世界のどこかにいるはずです。会いたい人には会ってみる、行きたい場所には行ってみることが大事ではないでしょうか。行動していくうちに見えてくることはあると思います。ぜひ、自分の夢や気持ちを大事にしてあげてください。
また、もし離島医療について興味を持っているなら、離島で活躍されている医療従事者の想いや活動を紹介する「離島医療人物図鑑」を運営しているので、ぜひ見てみてください。私自身が学生時代、全く離島医療について知る機会がなかったことから運営を始めました。ここで会ってみたい人を見つけて、離島医療の夢を追う人が出てきたら嬉しいですね。
(インタビュー・文/coFFeedoctors編集部)※掲載日:2022年12月8日