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病気になっても安心して暮らせるまちをつくる

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健康を意識して暮らしていても、病気になったり障害を抱えたりすることはあります。そういったときに「このまちだったら安心して暮らせる」と思えることが大切なのです。

神奈川県川崎市中原区は、武蔵小杉を中心に再開発が進む若い世代の多いまちです。健康に関する問題なんてまだまだ先の話なんじゃないの?と思われがちですが、潜在的なリスクは抱えています。

林立するタワーマンションは華やかな印象の一方、地域との交流が希薄になったり核家族化を進めたりする一面も持ち合わせており、病気や障害を抱えたときの支え合いが機能しないリスクと隣り合わせです。また地域の人口はどんどん増えていますが、それを支えるだけの医療・福祉の機能は追いついていないのが現状です。

10年後、20年後、このコミュニティ全体が年老いたときに、どのような未来が待っているでしょうか? その未来に備えるために、どのようにして自分たちの健康を守り、地域を育て、医療と関わっていくか、ひとりひとりが「自分事として」考えていくことが求められています。

そういった中、中原区を中心にまちづくりや地域交流を担ってきたNPO法人「小杉駅周辺エリアマネジメント」および、企業、医療者、住民が協力して、「健康×まちづくり」をテーマにしたプロジェクト「+Care Project」が立ち上がりました。

「+Care Project」では「楽しみながらまちで生活していたら、いつのまにか健康になっていた」という企画を打ち出していくことで、元々健康に興味がなかった方々の行動を変えようと狙っています。

2014年度は、まちのお祭りの中で姿勢計を用いた身体計測を行い「正しい姿勢づくり」から運動習慣へつなげてもらおうという企画を最初に行いました。お祭りの人手は5万人以上。「姿勢計測」の文字を見て多くの方が足を止めます。

「姿勢計測ってなに?」

「歩き方がキレイか測定してくれるの?」

実際測ってみると、自信満々だった方がまさかの低得点だったり、お子さんが100点満点近い点数をたたき出して家族でびっくりしたりと、ワイワイ盛り上がりながら楽しんでいただけました。

次にご案内した企画は「こすぎ美人教室」と「WALK&GET」です。「こすぎ美人教室」では実際のモデルや芸能人の方々にも指導をしているウォーキングインストラクターの先生をお招きしてレッスンを行いました。「WALK&GET」は活動量計や歩行計を持ってお店に行くと割引サービスが受けられる企画です。運動習慣と正しい姿勢で将来の機能障害の予防を狙っています……が、そんな堅苦しいことはもちろん前面には出しません。あくまでお題目は「モデルのような歩き方で武蔵小杉を闊歩!」「地元のお店でお得なサービス! 活動量計で!」というのがミソなのです。

その後も、味噌造りなどを楽しみながら発酵食の健康効果を知ってもらおうという「こすぎ発酵倶楽部」や川崎市発祥のスポーツ「リングビー」の体験会など、さまざまな企画を予定していますが、コンセプトは皆同じです。これからは、地元の商店街や企業などをもっと巻き込みながら、地域に「+Care Project」のタネを広げていくことが目標です。

「+Care Project」のコンセプトは「病気にならないまち/病気になっても安心して暮らせるまち」です。「病気になっても安心して暮らせるまち」の文言を入れたのは、予防の大切さを追うあまりに、病気や障害を抱えた方へ冷たい社会にしたくないとの思いをこめてです。これからもここで暮らすひとりひとりが前向きに安心して暮らせるまちづくりを提案していきます。

○+Care Project
http://kosugipluscare.jimdo.com/

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医師プロフィール

西 智弘(にし ともひろ) 腫瘍内科

川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科
2005年北海道大学卒業。室蘭日鋼記念病院での家庭医療を中心とした初期研修、川崎市立井田病院での総合内科/緩和ケアの研修を経て、2009年より栃木県立がんセンターにて腫瘍内科の研修を受ける。2012年より現職。緩和ケアチームの業務を中心に腫瘍内科・在宅医療に関わる一方、地域において「健康×まちづくり」をコンセプトとした「+Care Project」のチーフマネージャーを務める。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医

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