憂鬱な雨をどう生きる
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天気が悪いと、憂鬱な気持ちになりませんか?
朝から雨が降っていたら、会社に行くのも億劫になってしまうかもしれません。じめじめした中で雨のしたたる傘を持って満員電車に乗り込むなんて、想像しただけで憂鬱になりそうです。車で行ってもいつもより渋滞するので、イライラしてしまいます。靴の中に雨が入り込んで靴下がびしょびしょに濡れてしまえば、気持ちが悪くて仕事に集中できなくなるでしょう。当然、望ましい状態ではありません。誰でもそんなことはあります。私も雨が好きではありません。
しかし、雨は降ります。いつまでも雨のことに心がとらわれていては、通常ではしないミスをしたり、大事な連絡事項を聞き逃したり、仕事のスピードが遅くなったりと、生産性の低下を招くことになるでしょう。雨のせいで気分が乗らないと思いながらも、仕事の質や生産性を落としたくはないはずです。
雨くらいなら1日中とらわれ続ける人はなかなかいないと思いますが、出来事によっては1日どころか、1週間、1カ月、5年、10年ととらわれ続けることもあります。外界には影響されずに、いつも通りのパフォーマンスを発揮できるようになることが理想ですが、残念ながら人間は、環境や出来事など外界の影響を受けないなんてことはできません。人間は誰でもゆらぐのです。ロボットではないのですから。
つまり、雨が降っていれば、ポジティブだろうとネガティブだろうと、気持ちに変化が訪れるのです。ただ、それをいつまでも引きずっているのは問題ですよね。「雨か……憂鬱だ」と思っても、もしすぐに気持ちを切り替えることができれば、仕事の質を落とす事もありません。
そこで有効なのが、「ライフスキル」という脳の思考スキルです。ライフスキルの真骨頂は、気持ちの切り替えを自分でできるようになることです。ライフスキルは、気づいたり考えたりするだけのシンプルな思考スキルなので、いつでもどこでも簡単にできます。そして、ライフスキルを鍛えていけば、この切り替えの速度や切り替えの度合いを高めることができるわけです。
雨が降ったら、「雨はいいことなんだ」とか、「雨のおかげで生きていけるんだ」などのポジティブ思考をすることとライフスキルは違います。ポジティブに考えたとしても、結局は雨に心が持っていかれているので、気持ちを切り替えられているとは言い難いのです。
それに、本心から「雨は良いことだ!」と思えるならいいですが、本当は「雨か……最悪」と思っているのに、その考え自体を否定し切り替えようとするのですから、心にとって健康的ではありません。自分にウソをついてまで、無理やりポジティブに捉えようとしていると、逆にストレスになるのです。
「雨か……最悪」と思ったなら、それを否定する必要はなく、自分がその意味を付けた事に気付くのがライフスキルのやり方なのです。「この『最悪』っていうのは、自分で意味付けしているだけなんだ」と、そう気付くだけでいいので、とても簡単です。わざわざ頭を使ってプラスの理由をひねり出す必要はないです。「ネガティブはいけない」という呪縛から「ポジティブにしなければならない、プラスでなければならない」という社会の風潮があります。
それよりも、あるがままに受け入れて自然体で対応していくライフスキルのような脳の使い方を薦めているのです。
医師プロフィール
辻 秀一 スポーツドクター
エミネクロスメディカルクリニック
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学び、1986年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。1991年NPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドを設立、代表理事に就任。2012年一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げた新リーグNBDLのチーム、東京エクセレンスの代表をつとめる。日本体育協会公認スポーツドクター、日本医師会公認スポーツドクター、日本医師会認定産業医