「好き」と社会をつなげ、子どもが笑顔で幸せな世界をつくる
記事
◆子どもが笑顔で幸せな世界をつくりたい
―現在はどういったことに取り組まれているのでしょうか?
子どもの「好き」と社会をつなげることに取り組み始めています。医師としては現在、藤田医科大学総合診療プログラムで専攻医研修中で、その傍ら、自分の事業を進めています。
―どのような事業を進めようとしているのですか?
日本社会はまだ、学力重視な部分があると思います。このような社会の中で、例えば勉強が苦手というだけで評価をされず「自分はできない子なんだ」「自分は挑戦をしてはいけないのだ」と思う子どもたちがいます。
だからこそ、子どもたちの「好き」を見つけ、好きと社会がつながる過程で、一歩踏み出し、それが自信につながる、そんなことを事業を通してサポートできたらと考えています。
◆医学だけでは、子どもを笑顔にできないのでは?
―なぜ、そのような事業を進めようと思ったのですか?
原点は高校時代にまでさかのぼります。高校生になり、自分が本当に取り組みたいことは何かと考えた時「子どもに関わる仕事がしたい」と思いました。そこで選択肢に挙がったのが、小児科医か保育士でした。
できるだけ多くの子どもたちに関わり、救いたいと思い、小児科医を目指すことを決意。医学部入学後も一貫して、小児科医になるという意志は揺らぎませんでした。
―ですが現在、小児科ではなく総合診療科で専攻医研修を受けられています。
初期研修をスタートし、小児科をローテートしている時に自分がもやもやしていることに気づきました。そこで自分に向き合ってみると「今まで自分がやりたいと思っていたことと小児科医が合致しないのではないか」「小児科学を提供することで、子どもは元気にはなるが笑顔にはならないのかもしれない」と思うようになったのです。自分が取り組みたいことはまさに、子どもが笑顔になって幸せになってもらうことであると感じるように。それを満たすために、医療という側面からはどうすれば良いのか、模索し始めました。
以前、子ども向けに聴診器を作るイベントをした際、子どもたちに「君たちが幸せになる時や笑顔になる時はいつ?」と聞いてみると「お母さんとご飯を食べているとき」「お父さんと野球を見に行ったとき」といった答えが返ってきました。子どもたちの笑顔や幸せのタイミングには、必ずと言っていいほど家族やその周囲の人々が登場します。それを踏まえた時「子どもの笑顔や幸せは、親御さんや周囲の人たちが元気で笑顔である上に成り立っている」のだと考え至りました。
ちょうどその頃、総合診療に出会ったのです。たまたま知り合いの医師から、総合診療なら目の前の患者さんだけでなく、その周りの家族や環境なども丸ごと診ることができると聞き「総合診療なら、私が取り組みたい子どもが生活する環境まるごと診て『子どもを笑顔で幸せにする』ということができるのではないか」と考えました。そして総合診療の道に進んでみて、さらに見えてくるものがあり、今の事業につながっています。
―それは何ですか?
ある15歳の子どもを入院で受け持った時の話です。いつもの通り疾患への介入だけでなく、心理社会的な介入を行なっていくと、社会的なサポートの不足が分かりました。このまま大人になっていくと病院すら受診できないような社会の闇の中に落ちていってしまう、そう思い、公的なサポートや周囲の環境を整え、今後も何かしらの社会のつながりができることを確認し、退院の日を迎えました。
「やっと家に帰れるね!帰ったらなにするの?」と聞くと「帰ったって何もしないよ。自分なんて何の取り柄もないし。何したってダメなんだよ」と言いました。自分が総合診療医としてできる全てを尽くしても、この子を笑顔で幸せにすることができなかったと自分の無力さを感じた瞬間でした。
改めて、子どもが笑顔で幸せであるとはどのような状態だろうかと考えました。本人の健康と周囲の環境を整えることを根底とし、さらに「自己可能感」や「自己許可感」があり人生に前向きになることで、ようやく笑顔で幸せな人生は送れるのだと思い至ったのです。
医師プロフィール
中込雅人 総合診療専攻医
2018年金沢大学卒業。聖路加国際病院で初期研修終了。現在、藤田医科大学 総合診療プログラムチーフレジデント。総合診療を学ぶ傍ら、GLOBIS経営大学院にて組織運営やマーケティングなどを学んでいる。子ども好きが高じ、昨年保育士免許も取得。