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睡眠不足が引き起こす病気のリスク

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記事

睡眠不足は心や体にさまざまな弊害をもたらします。睡眠不足により、生活習慣病のリスクが高まるという報告も出ています。

 

◆睡眠不足だと、風邪をひきやすい!?

睡眠時間が少ないと、風邪をひきやすくなることが実験で確かめられています。鼻の中に風邪のウイルスを注入して風邪にかかるかどうかを調べたところ、ウイルス注入前2週間の平均睡眠時間が7時間未満だった人は、8時間以上寝ていた人に比べて2.9倍風邪にかかりやすかったのです。また、寝不足の状態だとインフルエンザワクチンの効果も出にくくなります。

 

◆睡眠不足だと、糖尿病になるリスクが高い!?

急性の睡眠不足は、血液中の糖分濃度を正常に保つ能力(耐糖能)を低下させます。また、慢性の睡眠不足は、インスリンの働きを低下させ、2型糖尿病のリスクを高めます。

睡眠時間の質と量で、2 型糖尿病を発症するリスクを予測できると結論している論文もあります。この報告では、2 型糖尿病を発症する相対危険度が、中途覚醒があると 1.84に、寝つきの悪さがあると 1.57に、睡眠時間が 6時間未満では 1.28 になることが指摘されています。

 

◆睡眠不足だと、高血圧になるリスクが高い!?

昼寝を含めた 1日当たりの睡眠時間が 5 時間未満の人では、狭心症、冠動脈性心疾患、心臓発作のリスクが 2 倍以上になることも報告されています。1982年から 84 年に睡眠時間を調査した32〜86 歳 のうち、高血圧ではなかった4,810 名を 8〜10 年間調査したところ、睡眠時間が 5 時間以下の人は、睡眠時間が7〜8 時間の人に比べて高血圧になる危険が 1.76 倍高いという結果になりました。この傾向は若年ほど強く見られ、32〜59 歳では、その危険が2.10 倍に達したとのことです。

同じ研究者は、眠りの長さと質を改善することで高血圧を改善できると指摘しています。言うまでもなく高血圧は脳血管障害の危険因子です。さらに睡眠時間の短さと高脂血症との関連も指摘されています。

 

◆夜勤交代制勤務は、がんになるリスクが高い!?

ヒトは夜行性ではなく昼行性の動物なので、昼間に寝ることは不得意です。実際に、夜ふかし気味の方は、睡眠時間が短くなりがちです。夜ふかしは、夜に光を浴びることも問題です。夜間の受光は、抗酸化作用、性腺抑制作用に加え、睡眠導入作用があることも知られているメラトニンの分泌を抑制します。メラトニンの分泌が減ると高脂血症の危険も高まりますし、性的早熟や発がん率増加の可能性も指摘されています。

2007年、国際がん研究機関IARC(International Agency for Research on Cancer)が、概日リズムに破綻をもたらす夜勤を含む交代勤務は、「発がん性がおそらくある」と結論しました。航空機乗務員は頻繁な時差対応を要する職業ですが、航空機乗務員と夜勤勤務者では乳がんと前立腺がんの頻度が高いという調査結果があります。デンマークはこの調査結果を受けて、乳がんを職業病と位置付け、長期間夜勤勤務をしていて乳がんを発症した場合の補償を導入しました。

産業医科大学の久保達彦氏によると、日本でもこのIARCのレポートをきっかけに、産業衛生専門家の認識が「まだ支持はできないが無視もできない課題のようだ」というように、少しずつ変化してきているそうです。

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医師プロフィール

神山 潤(こうやま じゅん) 小児科

公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者) 
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。

神山 潤(こうやま じゅん)
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