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結果を出す人は、「心」を大事にしている

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「結果」だけをモチベーションにして生きていると、ストレスがかかり、「不きげん」になり、パフォーマンスが落ちてしまいます。しかし、「自分の心は自分で決める」生き方ができれば、心のゆらぎが少なくなり、パフォーマンスも上がるのです。

 

人間の社会では、いつも「結果」を求められます。実績や成果と言ってもいいでしょう。とにかく、ほぼすべての人たちがそれらを獲得するために、行動を選択して生きていると言っても過言ではありません。ビジネスも、勉強も、スポーツも、どこへ行っても「結果」というものがついて回ります。それは、人間の脳の働きには「認知」があり、外側の世界をつねに判断し、評価し、結果を予測して行動を選択するからです。

私たちは、良かれ悪しかれ社会の仕組みと脳のこの機能から逃れることはできません。しかし、結果を求めることは、私たちをとても疲れさせます。仕事でなかなか結果が出なくてつらいと感じている人も、世の中には多いでしょう。結果が出なければ、たいてい人から責められますし、責められなくても、結果の出せない自分を「ふがいない」と思う人もいるかもしれません。「売上げなんか上げなくていいから、楽しく仕事をしようよ」などという奇特な会社は、あまりありません。

こうして私たちは、たとえつらくても「結果」を考えて行動することに慣れてしまいました。たとえば、趣味や楽しみで何かをやっている場合は、結果にはこだわらなくてもいいはずなのに、その場合ですら、「今月中にゴルフを○スコアで回る」というように目標を設定してしまうのです。このパターンで生きるのは苦しいとわかっているのに、仕事を頑張るのも、趣味を頑張るのもすべて結果のため。「結果」がわからないと、行動することができないという人さえいます。

もちろん「結果」を得る喜びはとても大きく、魅力的であることは間違いありません。しかし結果は、本来は自分でコントロールできないものです。どれだけ認知の脳を働かせても、それは「予測」にすぎません。やってみなければ、結果はわからない。そして、頑張って結果がついてくることもありますが、いくら頑張っても結果が出ないこともある。結果はあくまでも外側にある多くの要因、つまり多因子、他因子の上に形成されたものなのです。

たとえばアスリートの世界では、ベストタイムで泳いでも、もっと早く泳ぐ選手がいれば優勝できませんし、ゴルフで最高のショットをしても、突風が吹いてフェアウェイを大きく外れることもあります。ビジネスの世界でも最高の仕事をしても、景気の良し悪しや、取引先の都合で、結果につながらないことはよくあります。

だから結果だけを行動の軸、すなわち自分のモチベーションにしていると、不安になって心にストレスがかかります。心にストレスがかかると、心の針が「不きげん」のほうに傾いてしまう。そして人間には、心が不きげんになると、パフォーマンスが落ちるという法則があります。

パフォーマンスが落ちると当然結果は出にくくなって、さらに心が「不きげん」のほうに傾くので、ますますパフォーマンスが落ちるという悪循環におちいってしまうのです。これを私は「結果エントリー」の生き方と呼んでいます。結果が出ないことが心を不きげんにし、さらに結果が出なくなるというザンネンな生き方です。

一方、心が「不きげん」に傾くと、パフォーマンスが下がることに気づいている人は、まず心の状態を整えることから始めます。心を大事にすると結果が出るということを知っているのです。つまりは、結果のために行動し、その結果によって心がつくられる生き方か、まず心をつくってから行動し、結果を得る生き方かの違いです。後者の生き方を「心エントリー」な生き方と呼びます。

心を大事にするというのは、「いやなことはしなくていい」ということでも、「結果」はどうでもいいということでもありません。人間として生きている以上、「結果」を無視して生きることはできません。私たちの脳は、結果のために認知を働かせ、行動を決めるようにできているからです。この仕組みを分かったうえで、最善の行動をとるために、心を切り替えて、自分の機能をまずアップさせて生きることが大事なのです。

私のクライアントのひとりに、外資系保険会社のトップ営業マンになった方がいます。この方は、「トップ営業マンになる」という目標のために、ご家族と別居してまで働き、見事日本でトップの座を勝ち取りました。けれど、彼はそのときに気づいたそうです。結果だけを追いかける生き方に自分が虚しさを感じていることに。

彼は私のワークショップを受けて、「結果エントリー」のほかに、「心エントリー」な生き方があることを知りました。彼は、人生は長く安定した結果を出していく必要があるからこそ、何をするにもまず自分の心を整えることが重要だと知り、心を大切にしていれば、よりよい行動をとることができるということがわかったと言ってくださいました。

ただただ結果だけを追求していると、誰でもいつか自然に、「このままではマズイ」ということに気づくのだと思います。それでポジティブシンキングを意識したり、お酒やタバコでストレスを発散したり、いろいろな対策をします。それでもストレスが限界にきて、心が病んでしまったりもします。

私は、限界にくる前に「まず自分をごきげんにしてから行動する」という「心エントリー」な生き方があるということを知っていただきたいと思うのです。そして、結局は、そのほうが「結果」も出るのです。

では、「心エントリー」で生きるためにはどうすればいいのでしょうか。まずは、「自分の心は自分で決める」と考えてください。「どんなふうに決めればいいの?」とか「心を決めるって具体的には何をするの?」というように、認知の脳には疑問がいっぱい湧いてくるかもしれませんが、とにかく考えるだけ、思うだけでいいんです。そうしたら、心の針は自然とごきげんのほうに傾くからです。

「心エントリー」な生き方をすると、日常がどうなるのか。ちょっと具体的に見てみましょう。たとえば、あなたが電車に乗っているとき、女子高生が大きな声で携帯電話をかけていたとします。あなたは「なんなの、この子。迷惑でしょ」とむかつきます。あなたがこのときにとることができる行動はふたつあります。女子高生を注意するか、注意しないかです。

まず「注意する」という行動を選択した場合。むかついたまま女子高生に言うのは、ごきげんではありませんから、当然「注意をする」というあなたのパフォーマンスは低くなります。よいパフォーマンスをしようと思ったら、まずは「この女子高生はむかつく」という意味づけに気づき、ライフスキルを働かせて心をごきげんに切り替えて注意するのです。これが「心エントリー」な注意の方法です。

女子高生がどんな態度をとろうと、その反応に自分の心を持っていかれたままにしないで、心を切り換える。「うるさいおばさんね」とか憎たらしいことを言われるかもしれませんが、あなたがむかついた状態のまま注意するより、女子高生が態度を改める確率は高まります。女子高生がどんな態度をとろうと、あなたの心は持っていかれない。だからしまいには相手が折れる。ゆらがずの心の状態に、ゆらぐ心は絶対に勝てないんです。

では、あなたが「注意しない」という選択をしたらどうでしょう。柄の悪い高校生に注意して、逆ギレされたらいやだし……。そういう選択もありです。でも、あなたがそう思って、「注意しない」という行動の内容を選択したのなら、もう女子高生に心を“接着”せず、ごきげんでいてほしいのです。

心が“接着”したままになっているとこうなります。電車を降りたあともずっと「ちゃんと注意すればよかった」とか「見て見ぬふりをしてしまった」と罪悪感を感じたりして、心がゆらいでとらわれてしまうのです。もしくは「注意しない」行動をとりながら、ずっとむかついて気分の悪いまま1日を過ごしてしまうかも……。

注意しようがしまいが、自分がとる行動の内容に関係なくまずは切り換えて、自分のごきげんをとる。これこそが「ごきげん道」の生き方なのです。心を切り替え、ごきげんになれたら、「よし、切り換えられた」とその感覚を大切にしてください。

「ごきげん」でなく、心がゆらいでいる状態で相手と会話すると、十中八九、状況は悪化します。会社で、部下を注意して部下に逆ギレされるのも、家庭で子どもを叱ってますます反抗されるのも、あなたの心にゆらぎがあるからです。

行動する前に、まず、自分の心を自分で決める「心エントリー」な生き方ができれば、あなた自身のゆらぎは少なくなります。その結果、機能が高まり、行動の質も上がるのです。心エントリーって、なかなか魅力的だと思いませんか?

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医師プロフィール

辻 秀一 スポーツドクター

エミネクロスメディカルクリニック
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学び、1986年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。1991年NPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドを設立、代表理事に就任。2012年一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げた新リーグNBDLのチーム、東京エクセレンスの代表をつとめる。日本体育協会公認スポーツドクター、日本医師会公認スポーツドクター、日本医師会認定産業医

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